スカルコッタス/サイクル・コンサート
(ホリガー:Ob、トゥーネマン:Fg、ハーデンベルガー:Tp、カニーノ:Pn 1994録音)



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ピアノ、オーボエ、トランペット、ファゴットのための四重奏曲 第1番
オーボエとピアノのためのコンチェルティーノ
ファゴットとピアノのためのソナタ・コンチェルタンテ
トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ
ピアノ、オーボエ、トランペット、ファゴットのための四重奏曲 第2番

ギリシアが生んだ悲運の天才、ニコス・スカルコッタス(1904〜49)。
アテネ音楽院でヴァイオリンを学び、1921年からベルリンに留学、シェーンベルクに師事しました。
十二音技法を完全にマスターし、シェーンベルクは「数多い生徒たちの中でひとかどの作曲家になれそうな10人」のうちのひとりとして、
ベルクやウェーベルンとともにスカルコッタスの名を挙げています。

ヴァイオリニストと結婚して子供も生まれますが音楽で食べていくことは難しく、経済的困窮から鬱病となり妻とも離婚。
失意の中、1933年に単身ギリシャに戻ります。
アテネでオーケストラのヴァイオリン奏者として働きながら200曲以上の作品を書きますがほとんど演奏されることなく、1949年に急病で亡くなりました。

スカルコッタスの「サイクル・コンサート」は、1939年から43年の間に作曲されたピアノと管楽器のための5つの室内楽曲。
作曲者は連作(サイクル)のつもりであり、まとめて演奏されることを望んでいたそうです。

ピアノ、オーボエ、トランペット、ファゴットのための四重奏曲 第1番は、2楽章で3分半ほどの小品。
無調で書かれていますがこれっぽっちも難解ではなく、ノリが良いというか屈託のない人懐こさが魅力です。

 第1楽章 モデラート・アッサイ
 

オーボエとピアノのためのコンチェルティーノ(1939)は3楽章で10分足らずのオーボエ・ソナタ。
十二音技法で書かれているそうですが無味乾燥なところはなく、ポップでおどけた楽しい曲。
適度に尖っていて聴く耳を気持ちよく刺激してくれます。

 第3楽章 ロンド (超絶技巧!)
 

同僚のオーボエ奏者からの依頼で書かれましたが、「演奏不可能」と言われ演奏してもらえませんでした。
まあ1939年のギリシャですからね。
ベルリンで作曲の勉強してきたっつう同僚に気のきいたソナタでも書いてもらおうと思ったら、出来上がってきたのは激ムズな十二音技法の曲・・・。
「いや〜、ちょっとオレこんなむつかしいの吹けねえわ、せっかく書いてもらってわりいけど」って感じだったのではないかと。
なお、最近はオーボエ・コンクールの課題曲に指定されることも少なくないそうです。
作曲者が知ったら喜ぶだろうなあ。

ファゴットとピアノのためのソナタ・コンチェルタンテ(1943)は、一番規模の大きな曲で3楽章25分。
同僚のファゴット奏者からの依頼で書かれましたが、「演奏不可能」と言われ演奏してもらえませんでした (←学習してない)。
民族音楽っぽいメロディも出てきて楽しい曲ですが、技巧的には最高難度なんでしょうね。

 第3楽章 プレスト (ファゴット・ソナタの傑作ではないでしょうか?)
 

トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ(1940〜42)は、5分半ほどの単一楽章の曲。
ピアノの長い前奏があり、待ちくたびれたころにトランペットが馬のいななきのように飛び込んできます。
ヴィヴィッドで色彩的で、やたらと元気のいい曲です。
この頃には鬱病は完治していたのでしょうか。

 

ピアノ、オーボエ、トランペット、ファゴットのための四重奏曲 第2番は、「タンゴ」「フォックストロット」のふたつの楽章からなる3分半の短い曲。
皮肉っぽくおどけた調子は、初期のショスタコーヴィチや新古典主義期のストラヴィンスキーに共通するものを感じます。

 タンゴ
 

 フォックストロット
 

無調だったり十二音だったりしますが、どこか親しみやすく土着的な匂いがするのがスカルコッタス。
センチメンタルで情緒的なところはなく、湿度の低い硬質なフォルムとたくましい響き。
音色の変化やリズムの動きに切れ味の良さがあります。
ギリシャの陽光と乾いた風を連想しますねと、ギリシャに行ったことのない私が言っております。

なお作曲者の構想通りの「サイクル・コンサート」が実現したのは、没後20年たった1969年、ロンドンにてでした。

ハインツ・ホリガーをはじめとする腕達者が集まったこのCDは、スカルコッタス・ルネッサンスに先鞭をつけたと言われる名盤。
以後スカルコッタスはぼちぼち演奏・録音されるようになり、BISレーベルが体系的に録音、最近はナクソス・レーベルもスカルコッタスを取り上げるなど
徐々に人気作曲家となりつつあります。

(2023.05.20.)


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