ヴァッセナール伯(伝ペルゴレージ)/コンチェルト・アルモニコ
ケヴィン・マロン指揮 アレイディア・アンサンブル




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さて、本日ご紹介するのは、アマチュア作曲家でオランダ貴族の
ウニコ・ヴィルヘルム・ファン・ヴァッセナール伯爵(Count Unico Wilhelm van Wassenaer , 1692〜1766)の
弦楽合奏曲集「コンチェルト・アルモニコ」全6曲(1740)であります。
さわやかでのびやかなメロディがじつに魅力的なこの曲、
バロック期の合奏曲の傑作ですね、大好きです。

 コンチェルト・アルモニコ第1番 ト長調 第2楽章 アレグロ
 (沸き立つような活力を感じさせるアレグロ)

この曲、1740年にオランダで出版された楽譜には、なぜか作曲者の名が書かれておらず、
作曲者はながらく不明でした。

4部のヴァイオリンにヴィオラ、チェロ、通奏低音という、やや特殊な編成。
ヴァイオリンを4部に分けるのは、当時イタリアのナポリなどで流行っていたスタイル。
そこでナポリで活躍した夭折の天才バッティスタ・ペルゴレージ(1710〜1736)の作品ではないかと、長い間言われてきました。

ところが1979年、ヴァッセナール伯の居城だった、オランダはトヴィッケル城の文書館でこの曲の手書き楽譜が発見されたのです。
タイトル「コンチェルト・アルモニコ Concerto Armonico」の筆跡はヴァッセナール伯のものではなかったものの、
フランス語による添え書き(「リッチョッティ氏によって出版された拙作の譜面"Partition de mes concerts gravez par le Sr. Ricciotti" 」)が伯爵の筆跡で書かれてありました。

由緒正しい貴族が作曲なんて、ちょっと恥ずかしかったんでしょうかね。
今で言えば、国会議員が完成度の高いジャズ・アルバムをリリースするようなもの・・・カッコイイじゃん。

と、いうわけで「コンチェルト・アルモニコ」の作曲者は、
オランダ人のヴァッセナール伯ということが判明したのです・・・


「ちょっと待った!」

え、誰ですかあなた。

「誰でもよろしい、私は納得できん」

と、いいますと・・・?

「曲が良すぎる」

はあ?

「虚心坦懐に聴いてみたまえ、ヴィヴァルディアルビノーニの最良の作品にも劣らない完成度、
 あふれる霊感、眼もくらむ色彩感、踊りだしたくなるほどの高揚感、
 天才ペルゴレージの作品として、250年もの間、誰もが納得していた曲だぞ。
 アマチュアのオランダ貴族などがこれを書いたとホントに思うのかねキミは」

い、いや、でも、書いたってことになってるみたいですよ・・・。

「これは、どう見ても才能あるプロの仕事だ。
 さらに、これほどの技量を持つ作曲家なら、ほかにも水準以上の作品を何曲も残しているはず。
 このヴァッセナールなる貴族、ほかにはどんな曲を書いているのかね?」

なんでも、1990年代に、2曲のリコーダー・ソナタが発見されたそうですよ。

「それだけかね! まったく腑に落ちん。
 そして楽器編成だ。なんでオランダ人が、ヴァイオリンを4部も使ったナポリ・スタイルの曲を書かなきゃならん?」

そ、それは、好きだったんじゃないですか、この編成が。

「4部のヴァイオリンに、ヴィオラ、チェロ、通奏低音。 
 7声部の作品
をいきなり見事に書き上げたのかねこの御仁は。
 アマチュアなら、まずはトリオ・ソナタあたりから始めるのが普通だろうが。
 しかもこの曲の各声部の扱いの巧みなこと。 7声部のみごとなフガートも見られる。」

生まれながらの天才だったのかもしれませんね。

「天才なら、1曲だけ書いて終わりと言うことは絶対ない!
 バッハしかり、モーツァルトしかり、ヴィヴァルディしかり、
 次々に作品を生み出し続けたはず、そうせずにはいられんはずだ!」

い、いや〜、でも、コレルリなどは、未熟な作品はすべて破棄したそうですよ。
ヴァッセナール伯も、習作やほかの作品は気に入らなくてすべて処分してしまったのでは?

「そ、そんなことは、大根足のカモシカ、猫背のハトじゃ!

なんですかそれは?

「ありえないということじゃ!
 とにかくわしには、ヴァッセナール伯の作品とは思えん。
 ペルゴレージではないにしても、イタリアできちんと音楽の訓練を受けた、プロの仕事に違いない。
 それをヴァッセナール伯が買い取って匿名で出版させ、
 仲間うちで、『じつは私このあいだ曲を出版しましてね、いやあヒミツですよ・・・』
 などと自慢して悦に入ってたのではなかろうか。
 モーツァルトのレクイエムでも知られるように、そういう貴族がちょくちょくいたのだよ当時は」

はあ・・・、どうなんですかねぇ。
でもまあ、いいじゃありませんか、イタリアには天才作曲家たくさんいるし、
名曲もいっぱいあるんだから、
ひとつくらいオランダに譲ってあげても。

「そういう問題か!」

まあ、誰の作品かな〜と、想像をめぐらせながら聴くのも面白いですしね。
作曲者が誰であれ名曲であることは間違いありませんので、
皆様も聴かれておいて損はないですよ〜。

「CDは、クラウディオ・シモーネ指揮 イ・ソリスティ・ヴェネティのがおすすめじゃ」

えーと、クライデヨ・シモネタさんですか・・・

「違うって」

あれ、このCD、廃盤みたいですよ。

「うう〜、世の中まちがっとる!」

 コンチェルト・アルモニコ第5番 ヘ短調 第2楽章 ダ・カペラ
 (巧みな対位法を駆使した緊張感にあふれた楽章)

(08.9.21.)


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注)イタリアの指揮者クラウディオ・シモーネ氏は、
「コンチェルト・アルモニコ」はヴァッセナール伯の作品ではないと考えていて、
下記のCDジャケットも「ペルゴレージ」と表記し、ライナーで持論を熱く語っています。
今回それを参考にさせていただきました。(2002録音)


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コンチェルト・アルモニコ第3番 イ長調 第4楽章 ヴィヴァーチェ

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