青柳いづみこ/ショパン・コンクール 最高峰の舞台を読み解く
(中公新書 2016年)



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「ショパンコンクールでは常にふたつの選択肢が交錯します。
ハイレベルの総合的なピアニストを選ぶか、卓越したショパニストを選ぶかです」

(185ページ)


先週末は、「和楽器バンド」のファンクラブ・イベントで大阪に行っておりました!

「和楽器バンド」のコンセプトは、「和楽器」+「バンド」
尺八・箏・三味線・和太鼓 + ギター・ベース・ドラムスの和洋楽器群に、詩吟をベースにした鈴華ゆう子のヴォーカルが乗る8人組グループ。
日本人にしかできない個性的で楽しい音楽を聴かせてくれます。

今まで何度かライヴには行きましたが、今回はファンクラブ・イベントということでまた違った雰囲気。
メンバー間で楽器を交換して演奏を披露するなど、大変面白かったです。

リーダーの鈴華ゆう子は、全日本詩吟コンクール優勝者でもあるスゴイ人。
さらに東京音大のピアノ科を卒業しており、ピアノもプロ級です。

ところでコンクールピアノといえば、往復の新幹線の中で読んだこの本。

 青柳いづみこ/ショパン・コンクール 最高峰の舞台を読み解く

2015年、一流ピアニストにして日本ショパン協会の理事である青柳いづみこがピアノ・コンクールのチョモランマ、ショパン・コンクールを徹底取材、
その歴史・内幕・裏話・ヤバイ話を詳細かつ赤裸々にレポートした一冊。

 いやー、いいんでしょうかねー、ここまでぶっちゃけちゃって!?

一次の書類選考で落ちた候補者を審査員のフー・ツォンが抗議して復活させたとか(しかもその人が優勝した!)、
審査員のユンディ・リが審査中に居眠りしてたとか、
フィリップ・アントルモンはちょっとでも自分の好みに合わない演奏には軒並み最低点(1点)をつけてたとか、びっくりするような話がメジロ押しです。

「ポゴレリチ事件」にも詳しく触れられています。
あれは彼の演奏がとても個性的で面白いけどオーソドックスなショパン解釈とはかけ離れていたため、と思っていたのですが、
実はもっと深い政治的な理由があったと、少なくともポゴレリチ本人は語っています(65ページ)。

そしてコンクールの審査について、みな薄々感じていること。

 「初日の最初のほうは基準が定めにくいので辛めの採点になる。長時間聴いているうちに疲労が重なってくる。
  審査が何日にもわたる場合は、午前と午後、あるいは1日ごとに審査評を提出することを求められる。
  すると、たとえば初日の午前中と3日目の午後で本当に同じ基準で採点していたのか、自信がもてなくなることもある。」
(212ページ)

たしかに、1日10時間ショパンの曲ばかり何日も聴かされ続けたら・・・。
それも聞き流すんじゃなくて、真剣に聴いて採点までしなきゃならないとしたら・・・。
精神的に危なくなっても不思議はありません、というか私なら気が狂う。

素晴らしいのが、出場者たちの演奏を多彩かつ洗練された言葉で表現した青柳いづみこの文章。
さすがは日本音楽界が誇るモノ書きピアニスト
音が聴こえ、演奏が見えるような文章技巧は華麗で流麗かつ圧巻。

 「協奏曲はとても良い演奏だった。音色も多彩で、ひじを上げたり、斜めにしたりしながら第一主題を美しく歌う。
  第二主題の鳴りきった明るい音も魅力だった。コーダからは一転して快速になり、ノーペダルのキレのよいタッチ。締めの重音には凄味があった。
  第二楽章もレガートを保つ指の力を感じる。オーケストラの上にくっきり出るトップの音がどんなにやさしかったことか」
(156ページ)

こんな名文があっちにもこっちにも無造作に転がっているのです。
こんなの読んだら、私みたいなシロートが音楽について書くなんて恐れ多くてできません! (やっとるがな)

それにしても、ここまでぶっちゃけてしまって、自らの地位が危うくならないのでしょうか、青柳女史は?
日本ショパン協会理事の座を追われたり、事故に見せかけて暗殺されたりしないでしょうか? (しねえよ)
ちょっと心配になるほどです。

(2016.10.19.)

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