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(素人による音楽形式談義・第2回)

ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」作品96・第1楽章

ところで「弦楽四重奏」ってなんなんですか。

ヴァイオリン2名、ヴィオラ1名、チェロ1名の4人で演奏される音楽よ。
   クラシックでも最もスタンダードな楽器編成のひとつで、たくさんの名曲があるジャンル。
   常設の「弦楽四重奏団」もたくさんあるわ。

4人で、「しじゅう相談」しているのね。

・・・・さて、曲いきましょう。

あー、スルーしないでー、突っ込んでよー、寂しいよー。

文中のタイミング表示は、このCDによっています。本場・プラハの四重奏団による落ち着いた演奏です。
   


Amazon.co.jp : Dvorak: String Quartets Opp. 96 "American" and 106


ドヴォルザーク「アメリカ」より第1楽章


速さはアレグロ・マ・ノン・トロッポ(ほどほどに快速に)。 まずは提示部2:45まで)
   さざ波のようなヴァイオリン、そして低いチェロの保持音に乗って、ヴィオラが第一主題を奏でる(譜例1)。



なんだか民謡みたいなメロディだわ。

いわゆる「五音音階」(『ヨナ抜き』ともいう)にもとづいているので、民謡風なの。
   弦楽四重奏曲の第一楽章第一主題をヴィオラが弾くのは、けっこう珍しいかも。
   実はこの曲の初演でヴィオラを担当したのは、ドヴォルザーク自身だったの。

なるほど、自分が目立ちたかったと。

主題はすぐにヴァイオリンで繰り返され、そのまま第一主題を扱いながら経過部に。
   0:55、新しいイ短調のメロディが登場(譜例2)。


第二主題ってわけね。

第一主題とは対照的に、鋭く下降するメロディ・ライン、次第に緊張感を高めてゆくわ。第一主題部とのコントラストが鮮やかね。
   と、1:43からイ長調のやさしいメロディが登場して、再びのどかな雰囲気に。
   ここから小結尾とも言えるけれど、このメロディ、主題としてキャラが立ってるので、あえて第三主題と呼びましょう(譜例3)。



歌詞でも付けて歌えそうなメロディね。

あなたが眠ったら子守唄代わりに歌ったげるからね。

こ、これは、絶対寝るわけに行かないなっ。

2:36、第一主題が戻ってきて、2:45には提示部はさりげなく終わっちゃう。
   続いて提示部の繰り返し(5:25まで)。

おお、また繰り返しか〜。 ところで、この曲、なんで「アメリカ」って言うの?

アントニン・ドヴォルザーク(18411904)は、チェコの作曲家だけど、
   1892年から1895年まで、アメリカの国立音楽院の学長として赴任していたの。
   そのアメリカ時代に書いた曲のなかで、交響曲第9番「新世界より」と、
   弦楽四重奏曲「アメリカ」の2曲は飛び抜けて有名で、ドヴォルザークの代表曲になっているわ。

要するにアメリカで書いたから「アメリカ」か。・・・そのまんまやんか!

アメリカでのドヴォルザークはインディアンの音楽や黒人霊歌に興味を持ち、その成果は作品に盛り込まれているわ。
   さらにチェコの民謡の語法も取り入れ、独特の魅力を持つ作品を作り出したの。
   ただし、民謡をそのまま使うようなことはしていなくて、メロディはすべてドヴォルザークのオリジナルよ。

盗作はしていないってわけね。

ドヴォルザークは、古今の作曲家のなかでも有数のメロディ・メイカー、美しい曲をたくさん残しているのよ。
   「新世界より」の第2楽章のメロディも、「家路」というタイトルで
   「とおき〜、やまに〜、ひはおちて〜」って歌詞で日本でも歌われて・・・
   ・・・あら、ちょっと、ねえ、大丈夫?

(気絶)・・・・し、死ぬかと思った。
   そ、そろそろ展開部に入るんじゃ?

あ、そうね、展開部は5:25から7:13まで。
   第一主題が短調に変化したと思うと、フォルテで盛り上がって、5:42から新しいメロディが登場(譜例4)。
   ただ、これってよく見ると、第一主題の後半が変化したものなのよね。



リズムが同じね〜。

6:03からは、譜例4が長調に変化したものがしばらく展開されてゆく。
   草原を馬に乗って駈けてゆくような、気持ちのいいフレーズでしょ。
   6:38、第二ヴァイオリンに短調の新しいメロディが出現(譜例5)。 これは第三主題が変化したもの。


これが第三主題・・・? そういえばどことなく似ているかも。

同じメロディで他の楽器も順次入っていって、「対位法的」に展開されてゆくわ。

戦争の時に弾をこめてドカーンとやる・・・

それは「大砲」

じゃ、むかしゲルマン民族がおおぜいでお引っ越ししたという・・・

それは「大移動」!  「対位法」とは、ふたつ以上の声部が絡み合うようにする作曲法よ。
   どちらが伴奏でどちらが主旋律ということでなく、対等にからみあって進行していくの。
   それはそれとして、7:14から再現部
   まず、提示部と同じくヴィオラに第一主題が再現。 7:38から経過部。チェロに新しいメロディが出るわ(譜例6)。
   提示部と全く同じでは芸がないから、変化をつけたのかしら。



でもどことなく第三主題に似ているような。

8:12から第二主題(譜例2)の再現(ヘ短調)。 そして8:59からは第三主題がヘ長調で再現するの。

えーと、提示部では第三主題はイ長調だったのよね。 ヘ長調ってことは、第一主題と同じ調になったわけか。
   うーむ、そういえば提示部のときとは、ちょっと感じが違うかな?

それがわかればたいしたものだわ。
   曲はそのまま結尾部に入ってゆき、9:40あたりで速度を落として、のどか〜な雰囲気になったかと思うと、
   最後は勢いを取り戻して・・・

締めのフレーズは第一主題だね。


          ★     ★     ★     ★


モーツァルトから100年たっても、ソナタ形式は微動だにしてないわけね。

ふーむ、なるほど、じつは私、クラシックの曲はなんであんなに長いのか、ずっと不思議だったんだけど、
   こういう形式をきちんと踏んでるからだったんだな〜。
   ってことは、途中でフェイド・アウトしたりするのは、邪道よね。

まあ、どんな聴き方しようと、その人の自由だけど・・・。
   それにクラシックに限らずどんな音楽でも、ある程度決まった形式はあるわ。
   とにかく、交響曲やソナタの第一楽章は、たいていソナタ形式で書かれているから、
   これを覚えておけば、クラシックがぐんと理解しやすくなるわよ。
   曲の見通しがつくようになるし、初めて聴く曲でも、「これが第二主題かな?」「ここから展開部だ!と、
   ゲーム感覚で推理しながら聴くと、 けっこう楽しいわよ。

   さて、つぎは、協奏曲のソナタ形式についてのお話です。 → 次のページ「協奏曲のソナタ形式」へ

(05.7.20.記)




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