アルヴォ・ペルト/アリーナ
Arvo
Part / Alina
(1999)
命名者は関西の人ではないかと思うのですよ。
それもちょっと外れのほう、関西弁イントネーションだけど独特の方言がある地方。
そこに住む人がこのCDを聴いて、思わず叫んでしまったのでしょう。
「こんなの、ありーな!?」
ことほどさように衝撃的な音楽です。
でも静かです。
「鏡の中の鏡」は、ゆっくりしたピアノの分散和音にのって、ヴァイオリン(またはチェロ)が音階をのんびりと上昇または下降していくだけの音楽。
まず2音上昇して2音下がり、つぎは3音上昇して3音下がる。 そして次は4音。
上昇音階と下降音階はA(ラ)の音を挟んだ鏡像になっています。
音は1音ずつ増えてゆき、9音に達したところで静かに終わります。
それだけ。
「ふ、ふざけるなー!」
と言いたくなりますね。
しかしなんなんですかこのあらがいようのない心地よさは。
透明かつ幾何学的、均整のとれた絶対美。
合わせ鏡の奥を覗きこむかのような無限の幻想性。
ほんとにこんなのありなんでしょうか。
アルヴォ・ペルト / 鏡の中の鏡(ヴァイオリン・ヴァージョン)
「アリーナのために」は、ひそやかな祈りのようなピアノ曲。
これまた、まったく美しいにもほどがあります。
研ぎ澄まされた静謐な響き、前衛的ではないのに現代的です。
こういう「間」の音楽って、日本人にはすんなり理解できるかもしれません。
そういえば「水琴窟」の音にも似ているような気がします。
石庭の石が、何気ないようで実は考え抜かれた配置になっているように、
「アリーナのために」の音たちも、「ここしかない」という場所に厳密に置かれているのでしょう。
一音たりとも無駄のない、きわめて純度の高い音楽。
アルヴォ・ペルト / アリーナのために
このCDは、「鏡の中の鏡」を3回(うちひとつはチェロ・ヴァージョン)、「アリーナのために」を2回収録しています。
別録音のようですが、演奏者は同じです。
これまた
「ふ、ふざけるなー!」
と言いたくなりますね。
しかし実際にCDをかけると、むしろ「もう一度聴ける、うれしい〜」という気持ちになるから不思議。
麻薬的な音楽です。
中毒にならぬよう服用には注意が必要かもしれません。
リピートでかけたりすると、ボーッと聴いてるうちに一日終わったりして。
(09.10.8.)
「アルヴォ・ペルト」の記事
ペルト/鏡の中の鏡
ペルト/ピアノ作品集
ペルト/タブラ・ラサ