こうの史代/夕凪の街 桜の国(双葉社 2004年)


Amazon.co.jp : 夕凪の街 桜の国

<ストーリー>
 夕凪の街:昭和30年の広島。 父と姉と妹を原爆で失った23歳の事務員・皆実は、母親と二人暮し。
       姉と妹が死んで自分だけが生き残ったことに、漠然とした罪悪感を抱きながら生きています・・・。
 桜の国:昭和62年の東京。 小学5年生の七波は野球チームで汗を流す元気な女の子。
       でも彼女の夢は、「友達の東子ちゃんのようにおとなしい女の子になること」・・・。


ある日、街を歩いていると、料理屋らしき店の前に「ゆうなぎ」という看板が。
「『湯うなぎ』・・・、ひょっとしてうなぎを湯どうふのように食べるのかなあ。
 身がぼろぼろこぼれないのかなあ・・・。 話の種にいちど食べてみてもいいな」
と考えつつ、しばらく歩いてから気づきました (わかりますよね)。

「夕凪」という名の店だったのです (漢字で書いてくれればいいのに)。
誰かに 「湯うなぎという料理があってね・・・」などとシッタカブッタする前に気がついて本当によかった。

そんな美しい(?)思い出のある、「夕凪」という言葉につられて買った、というわけではありません。
こうの史代「夕凪の街 桜の国」は、平成16年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞作として、
各方面で絶賛されている作品。 権威に弱い私、早速入手いたしました。

連作を貫くテーマは「原爆の惨禍」。 
それを声高に訴えるのでなく、平凡な人々の日常の中にふと射す暗い影を描くことで、
原爆の非人間性を鮮やかに浮かび上がらせていく云々・・・
というところが高く評価されたようで、その点に関しては私も「なるほどなあ」と思うのですが、
私が勝手に感心したポイントは、本格ミステリ的なストーリー運びの巧みさです。
といっても犯罪が起こるわけではなく、あちこちに小さな「謎」を仕掛けることで読者の興味を引っ張ってゆき、
最後にそれらを綺麗に解明して結末を迎える構成が、素晴らしく本格テイスト。
皆実が半袖の服を着たがらない理由は? (これはすぐに想像がつきます)
「夕凪の街」の皆実「桜の国」の七波の関係は?
七波の父親の奇妙な行動の理由は? などが徐々に解明されてゆき、
ラストで、ひとつの家族の50年にわたる歴史が鮮やかに立ちあらわれます。
希望を感じさせる終わり方も、好感を持ちました。

再読してみると、あちこちに手がかりはちゃんと散りばめてあり、
気をつけて読んでいれば謎でも何でもなかったのになあ、と納得させてくれるところがまた本格。
この作者、ひょっとするとミステリ・マニアでは?

そんなヨコシマな読み方をしてしまった私が言うのも何ですが、とても良かったです。 

(05.1.8.記)


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