酒村ゆっけ、/無職、ときどきハイボール
(ダイヤモンド社 2121年)



Amzon : 無職、ときどきハイボール

無職、ときどきハイボール

最近ドはまりしている酒飲みユーチューバー「酒村ゆっけ、」さんがエッセイを出版したので、早速一気飲みじゃなかった一気読み。
この人にかかれば公園もディズニーシーも自販機コーナーもみな居酒屋、酒とつまみさえあれば楽園エブリホエア、桃源郷フォーエバー。
それにしても名前の後の「、」はなんなんだ。

 

カロリミットもビールで流し込む豪傑ぶりにほれぼれしますが、なんと言っても言語感覚が魅力的&刺激的。

おっはモーニング、カロリー全部流しコロボックル、ずるぽずるぽ(←麺をすする音)、完酒!、などの常連ワードをはじめ、
次から次に変だけど詩的な言葉が湧き出て酒とつまみを賞賛賛美礼賛崇拝、バッカスとムーサの申し子なのでしょうかこの人は。
村上春樹が酔ってくだを巻いているような独特の比喩にも魅了されます。

東海林さだおの正統なる後継者はこんなところにいたのか、と眼を開かれる思い。

 白菜や豆腐、具材すべてがこのすき焼きのたれの独裁によって統一されている。「あなた色に染まりたい」という声が聞こえてきそうだ。
 噛みしめるたびにジュワッと溢れ出すタレは、食材たちを洗脳している。どっぷりと恍惚にタレの沼にはまってしまった食材たちが舌の上で溶けていった。
(81ページ)

 まずは、雲丹を豪快に一口。
 おいじーーーっ!
 食した瞬間、目の前に海が広がった。心地よい優しい海。私とビールの恋を温めてくれるそんな海だ。
(177ページ)

彼女の恋人はサンタクロースならぬアルコホール。
ビールは元カレで、ハイボールは今カレというか「安心感しかない旦那」、ストゼロは「正真正銘のダメ男」で鬼殺しは「離婚歴もあり、孤独を背負った50代」なんだそう。

本文中のイラストも可愛いけど、本人の自筆ではないようです。

 

豪快で気持ち良い食べっぷり飲みっぷりに、読むだけでウエストが2cmくらい増える気がします。
動画を見ていると、夜な夜な飲み歩いては構想を練ったという昭和の無頼派作家がオーバーラップします(檀一雄とか色川武大とか)。
もっともご本人は「ひきこもり」を自称していますが。

 

私は酒村ゆっけ、さんの父親世代なので(ゆっけさんと同い年くらいの娘がいます)、余計なお世話かもしれませんが彼女の体がちょっと心配です。

映画「ラウンド・ミッドナイト」(1986)で、酒におぼれる天才サックス奏者デイル・ターナーを気遣う友人フランシスの気持ち。
酒はデイルの体をむしばむと同時に、彼の霊感の源泉でもあるのですが。
ゆっけさんは肝臓と会話ができるようなので、ぜひとも定期的に会議を開催して無理のない範囲で活躍していただきたいです。

なお、酒村ゆっけ、さんによると「アルコールは魔法だね」だそうです。
確かにあれだけ飲んで食ってそんなにスリムなのは、なにかの魔法としか思えませんな。

 

(2021.03.14.)


関連記事
酒村ゆっけ、/酒に溺れた人魚姫、海の仲間を食い散らかす

「本の感想小屋」へ

「整理戸棚(索引)」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ