ヴァインベルク/フルートのための作品全集
(クラウディア・シュタイン:フルート ほか)



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<曲目>
フルート協奏曲第1番 作品75
フルート協奏曲第2番 作品148b
フルートとオーケストラのための12の小品 作品29b
フルートとピアノのための5つの小品


優美で明るいヴァインベルク??


昨年生誕100年だった作曲家ミェチスワフ・ヴァインベルク(1919〜96)、このところ人気上昇中で、いろいろなCDが発売されるようになってきました。
これはヴァインベルクのフルートのための作品をすべて1枚のCDにまとめたもの。

ヴァインベルクはポーランド生まれのユダヤ人、第二次大戦中にナチスに親兄弟すべて殺され、
ただひとり命からがら逃げ込んだソ連でもユダヤ嫌いのスターリン政権に迫害され、国家反逆罪で逮捕されるなどしました。
そのせいか作品は陰鬱で重厚なものが多く、彼の交響曲や弦楽四重奏曲を立て続けに聴くと気分が悪くなるほどです(ならなぜ聴く)。

 しかるに・・・・・・

なんでこのCDはこんなにスイスイ気楽に聴けるのでしょう?
休日の午後に、控えめの音量でリビングに流してみたら気持ちいいんですけど! 
これホントにヴァインベルクですか!?

やはりフルートという楽器の持つ隠しきれない優雅さ、爽やかさのせいでしょうか。
これがチューバとかコントラバスだったらこうはいきませんよね(当たり前だ)。

フルート協奏曲第1番 作品75(1961)は、ショスタコーヴィチがフルート協奏曲を書いてたらこんな感じかもと思わせる曲。
軽やかで開放的で、なんなんですかこの明るさは? 
ホント、ヴァインベルクとは思えません。

第1楽章


フルート協奏曲第2番 作品148b(1987)は、作品番号についてる「b」が気になります。
作曲者自ら「B級作品」と認めているのかな・・・・・・って、そんなわけあるかっ!
実は「作品148」は本来フルートと管弦楽のための協奏曲で、それを作曲者がフルートと弦楽合奏のために編曲したのが「作品148b」なのです。
ショスタコーヴィチの影響からも抜け出し、自在に遊び戯れるフルートを合奏が優しく支えます。
第3楽章ではグルックの「精霊の踊り」、バッハの「組曲第2番」などが引用され、けっこう遊んでいます。
春の陽光のように穏やかな響き、小鳥のさえずりのようなフルート・・・・・・あのー、やっぱりいつものヴァインベルクくんじゃないよ、これ。

第3楽章


フルートとオーケストラのための12の小品 作品29b(1947/1983)も、作品番号に「b」がついてます。
この曲はもともとフルートとピアノのための曲だったのですが、のちに作曲者自身がフルートとオーケストラに編曲、それが「作品29b」です。
わざわざ編曲するくらいですから、お気に入りだったのでしょうね。
1〜2分の短い曲の集合体です。
爽やかで明朗で、ヴァインベルクの趣味のよいメロディ・センスが存分に発揮されています。

第6曲「ワルツ」


第10曲「エチュード」


フルートとピアノのための5つの小品(1947)は永らく未出版で作品番号を持たない作品。
最近楽譜が発見されたそう
1曲目でいきなりドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」を引用してアレッと思わせるなど、ヴァインベルクさん気が利いています。

第1曲「ランドスケープ」


第2曲「ファースト・ダンス」 第4曲「メロディ」(このCDの演奏ではありません)


微笑んでいるような愛らしさ、響きの面白さ、じつに気持ちのよいフルート・アルバムです。
しかし決してそれだけで音楽を組み立てていないところが天才の天才たる所以。
楽しさは楽しさでわきまえつつ、キッチリ凛とした格調を保った名曲揃いです。
さすがはミェチスワフ・ヴァインベルク、私が見込んだだけのことはあるぜ(何様じゃ)。

(2020.01.05.)


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