ストラデッラ/弦楽のためのシンフォニア
(アンサンブル・アルテ・ムジカ)




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アレッサンドロ・ストラデッラ(1639〜82)は、前期イタリア・バロックの作曲家。
アルカンジェロ・コレルリ(1653〜1713)の14歳年長です。

 一言で言って天才でした。

オペラ、宗教曲、器楽曲なんでもこいのオールラウンド・コンポーザーであり、とくに「合奏協奏曲」という形式を創始したのはストラデッラと言われています。

ストラデッラは1670年代にローマで前スウェーデン女王クリスティーナの屋敷に仕えていましたが、コレルリもそこに仕えていました。
コレルリは楽団の一員としてストラデッラの曲をたびたび演奏したそうです。
のちにコレルリはストラデッラのスタイルを発展させて、「合奏協奏曲集 作品6」という名作を残しました。

このアルバムはストラデッラの「弦楽のためのシンフォニア」を収録したもの。

 

・・・う、美しい。

さわやかで活気がありますが、色気脂気もたっぷり含んでしっとりうるうる。
演奏も素晴らしく、その音の表情の濃いことと言ったら。
そして三つの声部が絡んだときの鋭敏な音の動きが、互いに煽り立てるように音楽のテンションを高めます。
歯切れのよいリズムとアーティキュレーション、快適な速さのテンポ感。
随所に聴こえるノーブルで愁いを帯びた旋律は情感たっぷりに歌われますが、音楽全体から受ける印象はのびやかで自然体。
さすがはコレルリがお手本にしただけのことはあります。

これほど麗しい作品を残したストラデッラですが、人間性はサイテーでした。
宗教曲をたくさん作曲しながら生活はハチャメチャ、カストラートの悪友とともにカトリック教会の金を使い込んだのが発覚し、ローマから逃亡します。
女性をだまして大金を巻き上げていたといううわさもあります。
ヴェネツィア、フィレンツェ、ウィーン、トリノなどを転々としながら、オペラ、オラトリオ、カンタータ、器楽曲を作曲。
一方でプレイボーイ(死語?)として貴族や富豪の女性を次々に誘惑。
1677年にはヴェネツィア貴族コンタリーニの愛人の音楽教師に雇われますが、その彼女とデキてしまい駆け落ち。
怒ったコンタリーニは殺し屋を雇って二人を追い、ストラデッラはトリノで襲われ負傷します。
傷害事件として裁判が開かれたことで事件を表沙汰にしたくないコンタリーニとストラデッラは和解、なんとか一件落着します。

しかし懲りないストラデッラ、ジェノヴァでロメッリーニ家の音楽教師に雇われた際、そこの令嬢(愛人説もあり)に手を出してしまいます。
ふたたび刺客に追われる羽目となり、1682年2月25日に殺されてしまいました。

出来の良くない肖像画しか残っていませんが、おそらく苦み走ったイケメンだったんでしょうね・・・。

典型的な破滅型の天才。
もし現代に生きていたら、天才ロック・ミュージシャンと呼ばれながら女とヤクに溺れて早死にしたのではないでしょうか。
素行が悪かったせいで(?)、現代ではコレルリの陰に隠れていますが、ことによると音楽家としてはストラデッラのほうが才能があったかもしれません。

(2020.07.18.)


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