今村昌弘/屍人荘の殺人
(東京創元社 2017)
Amazon : 屍人荘の殺人
親分:今村昌弘「屍人荘の殺人」
2017年ミステリ界最高の話題作がこれだっ!
ガラッ八:どんな作品なんですかい?
親分:神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、映画研究部の夏合宿に飛び入り参加、同じ大学の剣崎比留子と共にペンション紫湛荘(しじんそう)を訪れる。
合宿一日目の夜、信じられないような異常事態が発生、メンバーたちは紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
しかも翌朝、メンバーの一人が密室で惨殺死体となって発見され、血なまぐさい連続殺人の幕が切って落とされた・・・。
ガラッ八:信じられないような異常事態ってなんなんですか〜、気になるでやんす。
親分:それを言ったらネタバレになっちまう。
とにかく無茶苦茶な状況で発生した無茶苦茶な連続殺人が、最後には論理的に綺麗に謎解きされる。
本格ミステリファンにはたまらねえな。
ガラッ八:そのわりに冒頭の設定は普通というか、ありきたりというか・・・。
親分:大学のサークル合宿だの、不穏な人間関係だの、人里離れたペンションだの、いかにもありがち。
しかしちょっと退屈しかけたところで驚天動地の事態が発生して、メンバーはペンションから一歩も出られなくなるんだよ。
ガラッ八:一歩も出られないってことは、いわゆる「クローズド・サークル・ミステリ」なんですかい?
親分:そうなんだ、孤島だの嵐だの橋が落ちただの誰かが電話線を切っただの、陳腐でいまどき誰も手を出さない設定だが、
独創的というか奇想天外というか異次元な方法で、クローズドしちゃったんだよこの小説は。
しかも、閉ざされたうえに徐々に居場所をせばめられていくサスペンスもある。
ガラッ八:異次元な方法・・・SFですかい?
親分:それは読んでのお楽しみ、とにかくその状況でなぜか連続殺人が発生する。
クローズドな状況で殺人を犯せば、いやおうなく容疑者は絞られるわけで犯人には不利なんだが、その不自然さも、上手にクリアしている。
ガラッ八:しかし連続殺人ですか・・・・・・ちょっと怖いわワタシ。
親分:こわくないよ〜。
グロテスクな状況で起こる血なまぐさい連続殺人だが、表現はおどろおどろしくなく、文章は簡潔で、びっくりするほど読みやすい。
ガラッ八:あっし、ミステリ読んでると登場人物がごちゃごちゃしてわからなくなるんすけど。
親分:それが非常に手際が良いんだ。
人物が増えてわかりにくくなってくるあたりで、ヒロインの口を借りて再度人物紹介が行われ、記憶力に自信のないお前に救いの手が。
しかも語呂合わせで覚え方を教えてくれる親切設計。
「名張純江」は神経質そうな女性キャラなので、「ナバリ・スミエ」でナーバスとか、
「重本充」は小太りのオタク男で、「小太りの外見が重くて充ちるという漢字にぴったり」とか、
「七宮兼光」はお坊ちゃまでペンションオーナーの息子なので「親の七光り」とか・・・
ガラッ八:「座布団全部もってけ!」レベルのダジャレじゃないすか!
親分:でもわかりやすくて助かるぞ。。
まあ言い換えれば登場人物は単なるキャラクター、物語を動かすための駒に過ぎないことを表明しているのかな。
感情移入せず、論理ゲームとして楽しめばいいってことだ。
ガラッ八:「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」と同じノリでやんすね。
親分:そうそう、そして最後の謎解き場面はどこまでも論理的、「なるほどそうか!」と膝を打つこと間違いなし。
異常な舞台を利用した、というかこの状況だからこそ成立するトリックなのも素晴らしい。
特殊な状況下の本格ミステリといえば、西澤保彦「七回死んだ男」、アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」「はだかの太陽」、岡田鯱彦「薫大将と匂の宮」などがあるが、
長く語り継がれるであろう傑作がまた一つ加わったな。
ガラッ八:そ、そこまで言いますか〜。
親分:なにしろデビュー作にして「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」「週刊文春ミステリーベスト10」すべて1位獲得という快挙だからな。
次作へのプレッシャーが心配になるほどだ。
ガラッ八:ミステリ作家として、順調に成長してほしいものでやんすね。
親分:まったくだ、次作にはぜひこれ以上の破壊力を期待したい。
ガラッ八:あんたが一番プレッシャーかけとるやないですか!
(2018.03.08.)