甲斐説宗の音楽



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きょうはちょっと「静かな音楽」を聴きたい気分。
でも甘ったるい音楽の気分じゃないな。

なので、1978年に39歳で早逝した鬼才、甲斐説宗(1938〜78)の作品でも。
東京藝大の作曲家を卒業後ドイツに留学し、リゲティブラッハーに師事しました。

 3人のマリンバ奏者のための音楽 (1975〜77)
 

まず思うのは「音の少なさ」。
極端に切り詰められた音たちが、聴くものとは関係なくただそこに存在している感じ。

「3人のマリンバ奏者のための音楽」は、マレット(ばち)を終始鍵盤に押さえつけ、残響を消した音のみで演奏されます。
禁欲的で抽象的な音世界。
人間が作った音楽というよりは、軒から滴る雨音を聴いているよう。
でも退屈するどころか、非人間的な感じが徐々に心地よくなってきます。 
あぶないです。

初期の作品である「ヴァイオリンとピアノのための音楽’67」は、多少劇的というか、リズミックに盛り上がるところもあったりします。

 ヴァイオリンとピアノのための音楽’67 (1967)
 

この曲は3つの楽章からなる一種のヴァイオリン・ソナタですが、
10年後にして最後の作品である「ヴァイオリンとピアノのための音楽U」になるともう型式は失われ、
淡々とした4分音符の歩みと2度のモチーフの反復のみ。

 ヴァイオリンとピアノのための音楽U (1978)
 
 

耳で聴く枯山水。
縁側で座禅を組みながら聴いてます(嘘)。

何度も推敲を重ね、不要な音をすべて除去して残った本質だけを呈示しています。
作曲者のノートによると

 「例えば庭で植木にハサミを入れる庭師のように黙々と手を動かしつづけることが出来れば、
 そしてついには本当にサバサバした庭が現出する、というようなやり方が出来れば」


ということですが、ハサミを入れすぎて裸木になっちゃった、という気がしなくもありません。
しかしその姿がけっこう味わい深く面白く、一部の物好きの心をとらえて離さないのです。

甲斐説宗のCDは私の知る限りこれ1枚しか出ていないですが、もうちょっと広く聴かれてもいい作曲家だと思います。

(2025.03.08.)

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