ケイト・モートン/リヴァトン館(2006)
(栗原百代・訳 RHブックス・プラス)

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<ストーリー>
老人介護施設で暮らす98歳のグレイスの元を、若い女流映画監督が訪れる。
70年前に「リヴァトン館」という貴族屋敷で起きた事件を映画化するため、生き証人のグレイスに取材をしたいと言う。
グレイスの脳裏に「リヴァトン館」でメイドとして過ごした日々があざやかに蘇る。
墓まで持っていこうと決めていた、あの惨劇の真相も・・・。
死を目前にした老女が語り始めた、驚愕の真実とは?


2012年、「第3回翻訳ミステリー大賞」は、ケイト・モートン「忘れられた花園」に与えられました。

 ”1913年、オーストラリアの港に小さなトランクとともに取り残されていた5歳の少女ネル。
  トランクには、お伽噺の本が一冊だけ。 彼女は誰? 親はどうしたのか?
  時は流れて2005年、イギリスはコーンウォールのコテージの忘れられた花園で明かされる驚愕の真実とは?”

ネルの孫娘が、百年にわたる一族の謎を解いてゆく、スリリングで魅力的な小説でした。
もっとも「ミステリ」かと言われると微妙な感じも。

じつは「忘れられた花園」はケイト・モートンの第2作。
個人的にはデビュー作である「リヴァトン館」がさらに面白かったです。

 ”1924年、イギリスの由緒ある貴族屋敷「リヴァトン館」で起きた悲劇的事件が映画化されることに。
  映画監督は、当時「リヴァトン館」でメイドをしていた、98歳のグレイスを取材する。
  じつはグレイスは事件に関し70年以上も、ある秘密をかかえていた。”

・・・ただしこれは「忘れられた花園」以上にミステリではありません。
いわゆる普通小説です。
過去と現代を行きつ戻りつしながらストーリーを展開する語り口がじつに巧みで、テンポ良く読み進むことができます。

この小説の読みどころは、第一次大戦をはさんでイギリス貴族社会がゆっくりと崩壊していく様子が、
若きメイド・グレイスの目を通して、哀感こめて描かれるところ。
太宰治「斜陽」みたいな雰囲気もあり、日本人好みの「滅びの美学」を堪能できます。
執事・召使階級の描き方は、以前読んだカズオ・イシグロ「日の名残り」を思い出しますが、
「リヴァトン館」のほうが、エンタテインメントに徹しているぶん読みやすくロマンティックです。

広大な土地にそびえ立つカントリーハウス、美しい庭園、豪華なディナー、舞踏会・・・。
華やかな生活を支えるのは、主人一家に献身的に仕えることをなによりも誇りとする執事、メイド、下僕やコックたち。

貴族階級と召使の間の厳然とした身分の壁や、イギリスが階級社会であることも、リアルに分からせてくれました。
執事がご主人様に向かって「アホでございますか」などと言うことは、天地がひっくり返ってもありえないのです、やっぱり(←当たり前)

ケイト・モートンは、オーストラリア人ですが、ヴィクトリア朝イギリス文学の研究者でもあるとのことです。

(2013.7.20.)

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