諏訪内晶子/詩曲(2004録音)
諏訪内晶子の新譜は、オーケストラ伴奏つきの小曲集。
サン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」「ハバネラ」、ショーソン「詩曲」、ラヴェル「ツィガーヌ」
といった有名曲の間に、ラロ、クライスラー、ベルリオーズの、やや珍しい曲をはさむ構成です。
これら有名曲、私の耳にはハイフェッツとフランチェスカッティの演奏が刷り込まれています。
圧倒的なテクニック・速いテンポでバリバリ弾きまくるハイフェッツ、艶やかな美音・粋なフレージングで魅了するフランチェスカッティ、どちらも至高の名盤。
さて、諏訪内晶子の演奏、完璧にして洗練のきわみです。
1曲目「序奏とロンド・カプリチオーソ」冒頭、遅いテンポに思わず「えっ?」。
まるでブラームスかベートーヴェンのよう.。 この曲がこれほど重々しく開始されたことがあったでしょうか?
徐々にテンポを上げてロンドに入ってからは、洒落た味わいにも不足せず、流麗かつ優雅。
序奏の重厚さとの対比が鮮やかです。
ワンフレーズたりとも適当に流さず、一音たりとも弾きとばさず、極めつけの美音で隅々までコントロール。
ハイフェッツの超絶技巧とフランチェスカッティのしっとり感を、兼ね備えていると言えないことも・・・ない?
コントロールが完璧とは、裏をかえせば表現過多なところがなく、節度を守った演奏。
「お行儀良すぎ」「機械的」とも言われる所以ではあります。
「ツィガーヌ」の後半は、フランチェスカッティで聴くと、きわめてユーモラス・しゃれた雰囲気ですが、諏訪内晶子はマジメ一徹、ひたすら冷静に端正な音楽を作り上げます。
世界の一流女性ヴァイオリニストにはムターとかチョンとか、情念こめまくりのコテコテ演奏をする人が多いので、ある意味異彩を放っているのかもしれませんが。
でももうちょっと遊びか余裕があってもいい気もするなあ。
ハイフェッツやフランチェスカッティの豪快さ・天衣無縫さを、王・長嶋だとすれば、
諏訪内晶子のクールで緻密な演奏は、いわばイチローか。
良くも悪くも21世紀的な名演奏なのかもしれません。
ショーソン:詩曲
(04.9.14.記)
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