シベリウス&ウォルトン/ヴァイオリン協奏曲
諏訪内晶子(vn) オラモ指揮 バーミンガム市交響楽団
(Philips UCCP 1065、国内盤)




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ヴァイオリニスト諏訪内晶子の最新録音は、ちょっと渋めの協奏曲のカップリング。

まずはシベリウス(1865〜1957)のヴァイオリン協奏曲 

もともとシベリウスのヴァイオリン協奏曲には、女流ヴァイオリニストの名盤が多くて、
ほの暗い炎のような情熱を感じさせるチョン・キョンファ(DECCA)、テンポや強弱に独特の癖と粘りがある、こってり味のナージャ(EMI)、
同じこってり味でもゴージャス&メタリックなアンネ・ゾフィー・ムター(DG)、完璧な中にもなんとなく愛想のある五島みどり(SONY)、などが思い浮かびます。

さて、諏訪内晶子ですが、唖然とするほど完璧な演奏です。
徹頭徹尾・正確無比・沈着冷静・愛想皆無・只々完璧です。
難曲のスコアを整然と音楽化、少しの乱れも無くコントロールしています(スコアを見ながら聴きました)。
機械的・無機的ですらありますが、ここまで徹底するとむしろ圧倒されるというか、背筋が凍るものを感じるほど。 
非の打ち所のないパーフェクトな演奏なんですが、言い換えれば氷の女王がニコリともせず演奏しているみたい。

 ある意味、異形のシベリウス

好みは大きく分かれると思いますが、この曲のファンなら一度は聴いておいて損はありません。

 第1楽章
 

つづくウォルトン(1902〜1983)のヴァイオリン協奏曲は1939年に初演された、いわば現代音楽ですが、
叙情的なメロディが美しく、さほど難解ではありません(ややつかみどころの無い音楽ではありますが。)
この曲は名ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツの依頼で作曲された曲。
現在諏訪内晶子が、そのハイフェッツが愛用した名器「ドルフィン」を使用している縁で取り上げたのかな (今年はウォルトン生誕100年でもありますし)。
超絶技巧の連発で、いかにも演奏至難な曲ですが、どんな難所も正確に弾ききっています(楽譜が無いので確かなことはいえませんが、多分)。

 第3楽章
 

諏訪内晶子の目指す音楽スタイルはどうやら「端正で完璧な演奏」
演奏者本人の個性を表面に出さず、「音楽自身に語らせる」ことを心がけているようで、
シベリウスも、ここまで整然として破綻がないと、かえって「面白みに欠ける」のもまた事実。
ストイックな姿勢は女性的というよりはハードボイルドであり、
どんな難曲でも眉一つ動かさず弾ききってしまう姿は、「ヴァイオリンを持ったゴルゴ13またはターミネイター」と呼びたくなります。
しかし、ハードボイルドも徹底すると美学を感じさせるもの。
自ら信じる「完璧な音楽」目指して進んでいるのであろうその姿勢、支持したいです。

(02.10.11.記)

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