三島由紀夫/肉体の学校(1964)



Amazon : 肉体の学校 (ちくま文庫)

貪欲に恋愛を謳歌する元華族の女性が、野性的な男性を追い求める恋愛物語。

戦後を機に不幸な結婚生活と決別し、自由で優雅な生活を謳歌するブティック経営者で元華族の妙子、39歳。
友人と訪れたゲイバーで、危険な魅力を持つ美形の若いバーテンダー千吉に惚れこんでしまう。
バー勤めを辞めさせて自分のマンションに彼を住まわせる妙子。
千吉は、互いに束縛しないという条件で承諾したが、妙子はしだいに千吉の外泊や行動に嫉妬をたぎらせてゆく。


三島由紀夫「肉体の学校」

読んだ人がみんな言ってることですが・・・

 「本当に50年以上前の小説なの!?」

ヒロイン妙子のドライでクールなキップの良さ!
思い切りがよく度胸がある一方で、女性らしいしなやかさと人情味も兼ね備えています。
解説の群ようこが言う通り、こんな女性にはとても「太刀打ちできない」です。

くらべると千吉のほうはやや薄っぺらい人間として描写されていますが、
完璧な美貌と肉体を武器に、貧しい暮らしからのし上がろうとする野心のぎらつきは、まぶしくも爽快。

オトナの恋愛小説ですが、
裕福で臈たけた元華族の美女と、野心と欲望以外なにも持たない美貌の若者の、激しくも甘美な闘いを描いた小説ともいえます。
さて軍配はどちらに上がるのか・・・?

大使館でのパーティーや、イヴ・サンローランのファッションショーなど、華やかな舞台が次々に登場します。
昭和38年に「マドモアゼル」という女性雑誌に連載された当時は、さぞかし読者の憧れをかき立てたことでしょう。

妙子はラストシーンで女友達とプールのウォーターシュートを楽しみ、
「今私たち何かをとおりぬけたでしょう。ちょうどあんな気持よ」、「私はもう学校を卒業したんだもの」と言い放ちます。
千吉という「肉体の学校」を決然と「卒業」した妙子、昭和30年代にこんな女性像を作り上げた三島由紀夫の凄さをひしひしと感じます。
ひょっとするとこの作品を読まずして日本の現代小説における女性像は語れないのではないかと思うくらい。

連想するのが、サマセット・モームの「劇場」(1937)。
あれも年増の美人女優と若い男の恋愛小説で、やはり男を振り切って一皮むけるヒロインのたくましさが印象的でした。

それにしても三島由紀夫はタイトルのつけ方が上手いですね。
「仮面の告白」「永すぎた春」「美徳のよろめき」「鏡子の家」「命売ります」・・・、つい読みたくなります。

(2021.06.26.)


その他の「三島由紀夫」の記事
三島由紀夫レター教室(ちくま文庫)

「更新履歴」へ

「本の感想小屋」へ

「整理戸棚(索引)」へ

HOMEへ