Amazon.co.jp : 三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)
ガラッ八:あれー、おかしな本でやんす、これ??
親分:なにを読みながら首をひねってるんだい?
八:いやあー、ちょっと手紙を書く用事がありやしてね、
参考のために読みはじめたんですが、なんか変なんですよこれ。
親:「三島由紀夫レター教室」か。
これは、「手紙の書き方」の本じゃなくて、書簡体小説だぞ。
八:やっぱりそうでしたか。
どおりで「同性への愛の告白」とか「恋敵を中傷する手紙」とか「閑な人の閑な手紙」とか
「家庭のゴタゴタをこぼす手紙」とか、妙な手紙ばっかり並んでるでやんす。
親:二人の女と三人の男、計五人が出したり受けたりした手紙だけで展開していくんだ。
サラッと読めてしまうが、そこはさすがに三島由紀夫、こういう通俗小説でも
隠し切れない格調の高さが鼻につくと言うか、面白いと言うか・・・。
八:それってほめてるんですかい?
親:三島の長編にしては気軽に読めるし、
クセのある登場人物の織りなす人間模様も面白いから、読んで損はないぞ。
1960年代のレトロな雰囲気も、かえって新鮮だったりする。
八:でも、現実の手紙やメールの参考にはならないでやんすね。
親:いってえ誰に手紙を書こうってんだい?
八:へえ、貸した金子を早く返してもらおうと思いやして。
親:だれに貸したんだ?
八:そりゃもちろん親分でさ・・・って、目の前にいるじゃないですか。
拝啓、親分。 こないだ貸した500円返してください。 敬具。
親:500円でわざわざ手紙出すのか、お前はっ!
八:ところで三島由紀夫って、ずいぶん偉い作家さんだったんですねー。
親:生きていればおそらくノーベル賞をとっただろうと言われているな。
そういえば三島由紀夫は、自分がつかった産湯のたらいの縁が光っているのを憶えていて、
それが最初の記憶だと主張している。
八:へえー、生まれてすぐのことを憶えてるんですかい、さすがに天才は違うね。
親:まあ、眉唾ものだがな・・・。
そういうおめえは、一番最初の記憶はなんだ?
八:へい、なんだか暗くて狭いところにいたんですよ、で、上のほうに明かりが見えて、
そこから手が伸びてきて引っ張り出してもらいましたー。
親:お、おまえ、ひょっとして生まれた瞬間を記憶しているのか!?
八:いやあ、そうじゃなくて、じつは3年生のときに汲み取り便所に落っこちちまったんで。
あれは心細かったな〜。
親:まぎらわしい記憶をもってるんじゃねえー!
というか、3年生より前の記憶はないのかおまえはっ!!
(08.12.2.)