三島由紀夫レター教室(1968年)
(ちくま文庫 1991年)



Amazon.co.jp : 三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)


ガラッ八:あれー、おかしな本でやんす、これ??

親分:なにを読みながら首をひねってるんだい?

八:いやあー、ちょっと手紙を書く用事がありやしてね、
  参考のために読みはじめたんですが、なんか変なんですよこれ。

親:「三島由紀夫レター教室」か。
  これは、「手紙の書き方」の本じゃなくて、書簡体小説だぞ。

八:やっぱりそうでしたか。
  どおりで「同性への愛の告白」とか「恋敵を中傷する手紙」とか「閑な人の閑な手紙」とか
  「家庭のゴタゴタをこぼす手紙」とか、妙な手紙ばっかり並んでるでやんす。

親:二人の女と三人の男、計五人が出したり受けたりした手紙だけで展開していくんだ。
  サラッと読めてしまうが、そこはさすがに三島由紀夫、こういう通俗小説でも
  隠し切れない格調の高さが鼻につくと言うか、面白いと言うか・・・。

八:それってほめてるんですかい?

親:三島の長編にしては気軽に読めるし、
  クセのある登場人物の織りなす人間模様も面白いから、読んで損はないぞ。
  1960年代のレトロな雰囲気も、かえって新鮮だったりする。

八:でも、現実の手紙やメールの参考にはならないでやんすね。

親:いってえ誰に手紙を書こうってんだい?

八:へえ、貸した金子を早く返してもらおうと思いやして。

親:だれに貸したんだ?

八:そりゃもちろん親分でさ・・・って、目の前にいるじゃないですか。
  拝啓、親分。 こないだ貸した500円返してください。 敬具。

親:500円でわざわざ手紙出すのか、お前はっ!

八:ところで三島由紀夫って、ずいぶん偉い作家さんだったんですねー。

親:生きていればおそらくノーベル賞をとっただろうと言われているな。
  そういえば三島由紀夫は、自分がつかった産湯のたらいの縁が光っているのを憶えていて、
  それが最初の記憶だと主張している。

八:へえー、生まれてすぐのことを憶えてるんですかい、さすがに天才は違うね。

親:まあ、眉唾ものだがな・・・。
  そういうおめえは、一番最初の記憶はなんだ?

八:へい、なんだか暗くて狭いところにいたんですよ、で、上のほうに明かりが見えて、
  そこから手が伸びてきて引っ張り出してもらいましたー。

親:お、おまえ、ひょっとして生まれた瞬間を記憶しているのか!?

八:いやあ、そうじゃなくて、じつは3年生のときに汲み取り便所に落っこちちまったんで。
  あれは心細かったな〜。

親:まぎらわしい記憶をもってるんじゃねえー!
  というか、3年生より前の記憶はないのかおまえはっ!!

(08.12.2.)


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