ヴィオッティ/ヴァイオリン協奏曲全集(10枚組)
(フランコ・メッツエナ独奏・指揮 ヴィオッティ室内管弦楽団)



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書きも書いたり29曲!

ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティ(1755〜1824)。
モーツァルトと同じころに生まれ、ベートーヴェンと同じころに亡くなったイタリアの作曲家&ヴァイオリニスト。

鍛冶屋の息子でしたが幼いうちから才能を開花させ、名ヴァイオリニスト・プニャーニの弟子となり、トリノの宮廷に仕えます。
1780年から師匠とともに諸国を演奏旅行し、ついにはロシアまで到達。
ロシアではエカテリーナ女帝に気に入られ1709年製の名器ストラディヴァリウスを与えられます。
ロシアに1年ほど滞在した後パリに行き、チュルイリー宮での公開演奏会「コンセール・スピリチュアル」で絶賛され、マリー・アントワネットの宮廷音楽家となりました。
フランス革命後はロンドンにわたり、ハイドンと親交を結んだりもしたそう。
革命が落ちついたころパリに戻りますが、なぜか音楽活動はせずワイン商人となります。
しかし1818年に破産、商才はなかったのかな。
負債を抱えた彼は女帝から与えられたストラディヴァリウスを3816フラン(現在の通貨に換算して200万円くらい)で売りに出しました。
しかしその後ストラディバリウスの値打ちはみるみる上がり、彼が生きている間に売値の25倍にまで高騰したとか (ヴィオッティ悔しがったそうです)。
1819年から21年にかけてパリ・オペラ座の音楽監督を勤め、1824年に亡くなりますが、死後には莫大な借金が残ったそう。

 なかなか波乱に満ちた生涯です。

なお1709年製のストラディヴァリウスは現在ロンドン・ロイヤル・アカデミーの博物館に展示され、誰も弾くことはできないそうです。
(ヴィオッティは他にもストラディヴァリウスを何丁か持っていて、現代も使用されている楽器もあります)

ヴィオッティがヴァイオリンの歴史に与えた影響は大きく、メロディを美しく歌わせるフランコ・ベルギー・スタイルの始祖といわれます。
また弓制作者トゥルテに助言して現在のモダン弓の形を作り上げました。

ヴィオッティ29曲ものヴァイオリン協奏曲を書いており、おそらく古典派以降では最多。
作曲年代は1781年から1808年まで28年間にわたっているので、ほぼ1年に1曲作った計算。
毎年律義にアルバムを出すアーティストみたいですね。

ブラームスが好み、ヨーゼフ・ヨアヒムとしょっちゅう合奏していたことでも知られる第22番イ短調が突出して有名。
また第23番ト長調はヴァイオリン学習者の練習曲とされています。
しかし他の27曲は全然まったくさっぱり知られていません。
よっぽどひどい曲のオンパレードなのでしょうか?

アマゾンでヴァイオリン協奏曲全集(10枚組)を見かけたのでついふらふらと買ってしまいました。

 第1番 ハ長調 第1楽章
 

・・・第1番からして、普通に良い曲です。
まあ際立った特徴とか個性はありませんけど、職人的な安定感を感じさせる素直で快適な曲です。

第18番なんか、ほのかな哀愁漂い、とっても魅力的です。

 第18番 ホ短調 第3楽章
 

第25番の第3楽章は、エキゾティックなメロディにトライアングルを盛大に絡ませて、当時流行の「トルコ風」。
小洒落たポップなセンスはモーツァルトの「トルコ風」にも負けてないような気が。

 第25番 イ長調 第3楽章
 

まあ正直、似たような曲ばかりたくさん書いたなと思わないでもありませんが、モーツァルトだってピアノ協奏曲を27曲書いているわけですから。

パガニーニ以前ということもあり超絶技巧をひけらかすのではなく、ヴァイオリンの艶のある音色とメロディをじっくり味わうスタイル。
逆に言えば、こういう音楽に慣れていた聴衆がパガニーニ聴いたらそりゃびっくりするよね。
(パガニーニがセンセーションを巻き起こすのは1813年10月29日、ミラノ・スカラ座でのデビュー・リサイタル)

正直どの曲も似たような感じでありまして、言い換えれば第22番が突出した傑作というわけではない気がします。
最後の第29番なんて、堂々たる風情で第22番よりも立派かも(雰囲気はそっくりですが)。

 第29番 ホ短調 第1楽章
 

ブラームスが第22番を特に愛好したのは何故でしょう?
他の曲を知らなかったから?
それとも第22番には、私には聴き取れない深遠さがあるのでしょうか?
(実際、第22番は初演直後から人気が高かったそうなので、私の耳が節穴である説が有力)

この全集でヴァイオリン独奏と指揮を担当しているフランコ・メッツエナというヴァイオリニストさん、優美で洗練された演奏は思わず聴き惚れてしまいます。
この人、マイナーなイタリアのヴァイオリン音楽を録音することに情熱を傾けているようで、
ほかにはヴィオッティ/弦楽四重奏曲全集(4枚組)パガニーニ/ヴァイオリンとギターのための作品全集(9枚組)などを録音しています。
よほどの熱意がないとできないことですね、凄いなあ。

(2022.09.21.)


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