アルベリク・マニャール/室内楽全集(4CDs)
ローラン・ワグシャル(p)/ソレンヌ・パイダッシ(vn)/カミュ・トーマス(vc)/エリゼ弦楽四重奏団



Amazon.co.jp : アルベリク・マニャール:室内楽全集[4CDs]

Tower@jp : アルベリク・マニャール/室内楽全集

<曲目>
ヴァイオリン・ソナタ
チェロ・ソナタ
ピアノ三重奏曲
ピアノと管楽のための五重奏曲
弦楽四重奏曲


山田風太郎の「人間臨終図巻」ではないですが、人はいつかは必ず死ぬもの。
音楽史に名を残す作曲家のみなさんも、様々な死に方で亡くなっていかれます。

とくに、もっとも「劇的」な亡くなり方をしたのではないかと思われるのは、
昨年没後100年、今年生誕150年のフランスの作曲家、アルベリク・マニャール Alberic Magnard(1865〜1914)でしょう。

父はベストセラー作家でフィガロ紙編集主幹のフランシス・マニャール、しかしアルベリクは親の七光りを嫌い、経済的援助は受けずに自立することを目指します。
パリ音楽院でダンディに師事、その後スコラ・カントルムで教鞭をとるも間もなく辞職。
社交嫌いで気難しく、出版社との付き合いも好まず、ほとんどの作品は自費出版したほど。
パリを遠く離れ、フランス南部バロンの邸宅で静かに暮らしていたところ、1914年に第一次世界大戦が勃発。
ドイツ軍迫るの報を受けたマニャールは妻と子供を疎開させ、自らは屋敷を守るべく居残りました。
やがてドイツ兵が敷地に侵入、マニャールは銃でふたりを射殺しましたが、ドイツ軍は撃ち返し、屋敷に火を放ちました。
あわれマニャールは焼け跡から黒焦げの遺体となって発見されたそうです。

このCDのジャケットはそのときのマニャールの肖像画・・・かと思ったらそうではなくて、
イギリス人画家スペンスレイの「ツェッペリンズ」という絵画だそうです。


じつは以前、マニャールの交響曲(全4曲)を聴いたときには、正直あまりピンときませんでした。
しかしその激しい死にざまもあり、なんとなく気になる存在ではありました。
このたび彼の「室内楽全集」が出ていると知り、さっそく購入。
内容は、堂々たる大曲が5作品。 小品とかはないんですね。

最初に収められた、40分に及ぶ「ヴァイオリン・ソナタ」からいきなり熱いです、燃えています。
重厚にして内省的、厳格にしてロマンティック、フランスの作曲家でありながら、エスプリやノンシャランとは無縁。
和声はやはりフランス近代音楽の響きであり、美しい瞬間が満載なのですが、
堅固な構築性を感じさせるその音楽は、むしろドイツの影響を受けてるんじゃないかと思います。
なんというか、セザール・フランクのヴァイオリン・ソナタをマッチョにしたみたいなソナタなのですよ。
ルクーのソナタにも通じるところがあるような名曲です、もう少し短ければ、リサイタルでもとりあげられやすかったかも。

 ヴァイオリン・ソナタより第1楽章
 

ほかには、「ピアノ三重奏曲」が明るく伸びやかで、とくに魅力的でしたが、
どの曲も忘れられるには忍びない名品ぞろい。
作品はおろか作曲者の名前すらあまり知られていないのは実にもったいないです。

 ピアノ三重奏曲より第1楽章
 

「チェロ・ソナタ」も暗めで重厚ですが、真摯で迫力に満ち、聴きごたえたっぷり。

 ソナタより第3楽章「葬送」
 (このCDの演奏ではありません)

ちなみに IMSLPで5曲とも楽譜を参照することができるので、ちょこちょこ見ながら聴きました(しょっちゅう落ちましたけど)。
どの曲にも一聴して耳を奪う派手さはありません、というか地味です、でも真摯で情熱的。
ただ、力が入りすぎていて、ちょっと息苦しい感じも。
もっと「遊び」とか「洒落っ気」があればと思わないでもありませんが、うっかりそんなことを言うと屋敷の窓から銃で撃たれそうです。

この4枚組、マニャール入門に好適と言えましょう。
とくに渋くて重厚で暗めの室内楽に首までどっぷり浸りたい人には、超オススメだと思います(いるのかそんな人?)。

なお音楽は3枚目までで、4枚目はマニャール研究家(?)が彼の音楽について語る、という内容。
オッサンが延々フランス語でぶつぶつ語り続けるという、ある意味レアでシュールなCDです。

 ピアノと管楽のための五重奏曲より第3楽章「軽快に」
 (マニャールにしては軽やかな音楽)

(2015.12.22.)

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