アルトゥール・ルリエ/ピアノ作品集(3枚組)
(モリッツ・エルンスト:ピアノ、2013〜2016録音)
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親分:ロシア出身の忘れられた作曲家、アルトゥール・ルリエ(Arthur Lourie, 1892〜1966)、知ってるか?
ガラッ八:ルリエですか〜、その人きっと「ぬり絵」が好きだったんでしょうね〜。
親分:安定のしょうもなさになぜか安心するわ。
ガラッ八:で、どんな人なんですか〜?
親分:ペテルブルグで裕福なユダヤ人の家庭に生まれ、ペテルブルク音楽院でグラズノフに師事、
画家や文学者とも交流し、ロシア・アヴァンギャルドの若き旗手だった。
ガラッ八:アヴァンギャルド? アヴォガドならいま流行ってますよ、健康にいいんですよね〜って関係ないすか。
親分:1910年代に早くも12音技法を使った曲を書き(シェーンベルクが12音技法を体系化するのは1921年)、
1915年のピアノ曲「大気のかたち(Formes en L'air)」は、図形楽譜のはしりのような独創的な記譜で人々を驚かせた。
(このCDの演奏ではありません)
ガラッ八:「大気のかたち」、タイトルが洒落てるでやんす。
親分:楽譜はこれだ。
ガラッ八:・・・うわ、なんですかこの楽譜、これで完成してるんでやんすか? どうやって弾けと?
親分:うつろいゆくまぼろしを五線に記録したかのような曲だな。スクリャービンの影響を受けながら、全く新しい響きを作り出している。
ガラッ八:たしかにスクリャービンをさらに幻想的で曖昧模糊にしたような感じですね。
親分:お、お前、スクリャービン知ってるのか?
ガラッ八:そりゃもう、スクリューでもビンでも、何でもこいでさあ。
親分:廃品回収じゃねえんだからさ。
ガラッ八:でも、現代的なようで、どことなくノスタルジックな感じもするでやんす。
親分:なかなか鋭いこと言うな。
1917年にロシア革命が起こる。当初ルリエは革命に共鳴し、新政府の音楽部門の人民委員に就任した。
しかし、彼に要求されたのは、労働者を鼓舞したり、革命を賛美したり、共産主義をプロパガンダする音楽だった。
ガラッ八:あ、なんか無理、合わなさそう。
親分:嫌気がさしたルリエは1921年に公務でベルリンに出張して、そのまま帰らなかった。
ガラッ八:つまりバックれちゃったんですね。
親分:その後ソ連ではルリエの作品はいっさい演奏されず、存在すらなかったことにされてしまった。
ルリエはパリに住み、多くの芸術家、とくにストラヴィンスキーと親交を結び、影響を与えあった。
画家としても活動し、教養豊かで洗練された芸術家とみなされていたが、やがてストラヴィンスキーと仲違い、
さらにナチス台頭のあおりを受けて、1941年にはアメリカに亡命する。
ガラッ八:放浪の人生ですねえ・・・。
親分:アメリカでは、セルゲイ・クーセヴィツキーの庇護を受けながら作曲を続けたが、あまり演奏機会には恵まれなかったようだ。
当時アメリカにはナチスの手を逃れたユダヤ人芸術家がいっぱいいたし、ルリエの繊細で前衛的な音楽は、アメリカ人には受けなかったんだろうな。
ガラッ八:はあ・・・わかる気がします。
親分:すっかり忘れ去られていたが、1990年代にギドン・クレーメルがルリエのCDを出したり、コンサートで取り上げたりして、ちょっとリバイバル。
しかし、クレーメル以外に録音する人はあまり出てこず、いまだ無名作曲家にとどまっているな。
ガラッ八:まあ一般受けする音楽じゃないですもんね。
ここの管理人みたいにゲテモノ好き・妙なもの好きは喜んで飛びつきそうですが。
親分:このCDは、ルリエのピアノ曲を年代順に収録した3枚組(ほぼ全集?)。
初期の、壊れた万華鏡のような危うく幻想的な作品も素晴らしいが、ストラヴィンスキーと知り合ってからの新古典的な曲も味わい深い。
最後の収録曲が1938年なんだが、アメリカに渡ってからはなぜかピアノ独奏曲はほとんど書いていないようだ。
ガラッ八:前衛的だけど、オシャレでファンタジックですよね。 モダン・インテリアのお部屋でBGM的に流すと似合いそうでやんす。
親分:おれたちの部屋では・・・、無理だな・・・。
ガラッ八:ルリエの曲かけながら、久しぶりに部屋でも片付けますか。
ソナチネ第3番(1917)
(わずか3分足らずのソナチネ。これぞロシア・アヴァンギャルド)
ルリエ:5つの前奏曲断章 作品1(1910)
(スクリャービンの影響をもろに受けた初期の傑作)
(2017.06.18.)
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