ルリエ/室内協奏曲(コンチェルト・ダ・カメラ) ほか
(ギドン・クレーメル独奏 ドイツ・カンマーフィルハーモニー 1992録音)



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さすらいの作曲家、アルトゥール・ルリエ(1892〜1966)。
ペテルブルクでユダヤ人の富豪の家に生まれました。
ペテルブルク音楽院でグラズノフに学びつつ、未来派芸術家のサークルや前衛詩人たちとも交遊、ロシア・アヴァンギャルドを代表する音楽家と目されます。

1917年にロシア革命が勃発。
ルリエは革命思想に共鳴し革命委員会の音楽部門長に抜擢されますが、しだいに「どーも合わんな〜」と思うように。
1922年にベルリンに出張したままバックレて帰らず、パリに亡命します。
ソ連ではルリエの曲の演奏は禁止され、公的な記録から名前も抹消されました。

パリではストラヴィンスキーと親しくなり互いに影響し合います(のちに喧嘩別れ)。
1941年、ドイツ軍がフランスに侵攻すると、ルリエはアメリカに渡ります。
しかしアメリカにはヨーロッパから逃げてきたユダヤ人音楽家がたくさんいました(シェーンベルク、バルトーク、コルンゴルト、ツェムリンスキーなど)。
彼らビッグネームに埋没してしまったのか、アメリカでは思うような音楽活動ができず、ほぼ無名のうちに世を去りました。

ヴァイオリンと弦楽のためのコンチェルト・ダ・カメラ
(室内協奏曲)は、1945年でアメリカで作曲された代表作&大傑作。
30分ほどの作品で、6つの楽章からなります。

たとえば第2楽章「アリア」を聴いてみてください。

 

抒情的で繊細なメロディの魅力! それでいてモダンでアヴァンギャルトで刺激たっぷり!
冷え冷えとした透明感、トゲトゲとした鋭い響き、くるくると変わる表情。
バロック風になったり、タンゴを思わせる部分があったりして、シュニトケの合奏協奏曲ですか!?」と突っ込みたくなりますが、
ルリエのほうがずっと早いんです。

第5楽章「セレナータ」は、ジャジーでブルージーなうたごころ溢れるカッコイイ楽章で、前衛と古典を上手にモザイクして聴くものを飽かせません。

 

独特で予測不能なメロディの動きがなんともいえず魅力的。
そう、ルリエは前衛的だけどメロディアスなのです。
彼は「メロディを音楽の中心に再び据えるべきだ」と主張して1930年代のストラヴィンスキーを批判しました。

 第6楽章「エピローグ」
 

音の動く姿、響きの仕掛け、変幻するメロディ、じつに斬新鮮烈です。

ギドン・クレーメル主導で録音されたこのCDは、忘れられた作曲家アルトゥール・ルリエを現代によみがえらせた名盤。
発売当時はかなり話題になりました。
1924年作曲の「小室内楽曲」、T・S・エリオットの詩による歌曲「リトル・ギディング」(1945)も収録されています。

(2023.06.05.)


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