浦久俊彦/フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか
(新潮新書 2013年)



Amazon.co.jp : フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか (新潮新書)

「芸術の使命は、苦悩に満ちた現実を、天空の高みに昇華させることだ」(フランツ・リスト)


こないだ「巡礼の年」を聴いてから、フランツ・リスト(1811〜1886)のことがなんとなく気になりまして、こんな本を読んでみました。


  浦久俊彦/フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか


リストに熱狂した聴衆の女性がリサイタルで次々と失神したという名高い逸話にちなんだタイトルから予想されるのとは違い、
内容は極めて真っ当、むしろ硬派ですらある、優れた評伝でした。
それにしても・・・

 なんというカリスマ・スーパースターですかこの人!!

音楽史上最大の巨人はフランツ・リストだったのではないかと思うほどです。

超絶的なピアノのテクニック、時代の先を行く作曲能力(先過ぎた)。
ハイレベルな実務能力、巧みな自己プロデュース、ケレン味たっぷりのパフォーマンス。
長身痩躯でスタイル抜群、神秘的な甘いマスク、強靭な体力、鋭敏な知力、女性を惹きつけるオーラ、男性も惹きつける男気。
数々の慈善活動、後進の教育、そして深い信仰心。

・・・まぶしい、まぶしすぎるぜ。
ただひたすら仰ぎ見るのみ。

リストと道ならぬ恋におち、のちにワーグナーの妻となる娘コジマを産んだマリー・ダグー伯爵夫人は、
リストとの出会いをこのように回想します。

 「扉があいたとき、異様な現象が目に飛び込んできた。現象という言葉を使ったのは、ほかのことばでは、このような強烈な驚嘆が描写できないからである」

恋する男と女の出会いの描写としてはおよそ規格はずれです。
当時マリー27歳。
21歳のリストはどれほど驚異的なオーラを発散していたのでしょう。

ショパン、シューマン、メンデルスゾーンなど、同世代のライバルたちにくらべるとちょっぴり影が薄いリストですが、
音楽家&人間としていちばんスケールが大きいのはリストだったのではないかと思わされます。
クラシック音楽好きなら絶対面白い、読んで損なしの一冊。
ショパンとの友情話も随所にちりばめられ、大変楽しいです。

刺激を受けて、ただいまリストの曲を色々と聴いています。
たとえば「ファウスト交響曲」(1857)、これ完全にマーラーやR・シュトラウスを予告していませんか。
おまけに循環形式とかライト・モチーフという発想の先駆けも見られます。
晩年に無調のピアノ曲を書いていたという話も有名です。

巨大すぎて全貌が見えにくいタイプの偉人なんですね。
リストの森をちょっと探索してみようと思いました。

(2016.06.21.)


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