ベートーヴェン(リスト編)/交響曲全集(6枚組)
(シプリアン・カツァリス:ピアノ  1981〜89録音)



Amazon.co.jp : Beethoven/Liszt: Symphonies 1-9

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ベートーヴェンの交響曲といえば40年以上前、クラシックを聴きはじめた頃からずーっと聴いてるもんですから、
控えめに言って「耳タコ」状態。
交響曲全集も7種類か8種類か9種類持っていて、いまさら数える気にもなりません。

正直、実演ならまだしも、家でわざわざCD聴こうとは思わない・・・と言いたいところですが、例外があります。
シプリアン・カツァリス(1951〜)のピアノによる、リスト編曲版です。

フランツ・リスト(1811〜86)は、ベートーヴェンの交響曲をすべてピアノ独奏に編曲しました。
編曲は1837年から65年まで、足掛け28年にわたってコツコツ行われました、ご苦労ご苦労。
これは録音技術がなかった時代に、ベートーヴェンの交響曲を広く知らしめようといういわば啓蒙活動でした。
なので誰でも気軽にレコードやCDを聴ける時代になると存在価値は失われ、
当然録音なんてされず、わずかに変人グレン・グールドが1960年代に「交響曲第5番」と「田園」を録音したくらい。

ところが1980年代、シプリアン・カツァリスという30そこそこの若いピアニストが何を思ったのか全曲録音を完成。
しかもリストが「ピアノ1台じゃこりゃ弾けんだろ」と省いた音やパートまで追加、より原曲に近い再現を目指すこだわりぶり。

 いやー、初めて聴いた時はビックリしましたね。
 「なにこれ、超オモロイやん!」
 耳からウロコがぼろぼろ落ちましたよ(←汚いぞ)。

 交響曲第3番「英雄」 第1楽章
 

いまやカツァリスといえば、どんな難曲も見事に弾きこなすスーパー・ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして有名。
一日16時間ピアノを弾いているという噂もあります。
なのでこの演奏も空いた耳がふさがらないほどの超絶技巧ぶりですが、なにより素晴らしいのが聴いて楽しいってこと。
キレキレのハイ・テクニックを駆使した、ノリノリのハイ・テンション演奏。
強弱の幅は大きく、テンポも自在に揺らぎ、急速楽章では音楽が飛び跳ねているみたい。
本人も楽しんで弾いてるんだろうな〜と、シアワセ気分で思わず微笑んでしまいます。

さらに凄いのが、どこまでもピアニスティックな演奏であること。
決してオーケストラの白黒コピーではなく、カツァリスの言葉を借りれば、
「ピアノ曲として完成されたもの」「ベートーヴェンのスーパー・ソナタ」
として存在を主張しています。

私は十数年前に6300円のボックス・セットを買って、「安く買えた、ラッキ〜」と思ってましたが、最近はさらに安くなっているのですね。
これ、歴史に残る名盤中の名盤です。
ベートーヴェンの交響曲が嫌いじゃない方は、一度は聴いてみることをオススメするものであります。
とくに「第9番」のフィナーレ、管弦楽も合奏も独唱も全部ピアノ1台で引き受けちゃう八面六臂な鍵盤無双ぶりにはびっくり仰天です。

 交響曲第9番「合唱付き」 第4楽章
 

(2017.02.15.)


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