高坂はる香/キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶
(集英社 2018)



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高坂はる香/キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶

2016年に亡くなったピアニスト中村紘子(1944〜2016)の評伝。

「キンノヒマワリ」・・・・・日本で一番有名なピアニストと言っても過言ではないこの人を形容するにふさわしい言葉です。
帯には「努力、天分、そして度胸と美貌」とあります、華やかですね〜。
言われてみれば、いつも明るい大通りの真ん中を、ニコニコしながら歩いていたイメージがありますが、ずっと太陽にさらされていると消耗も激しいもの。
幾多のピアノ・コンクールの審査員や、浜松国際ピアノ・コンクールでは審査委員長を長く務め、
全国津々浦々でリサイタルを開き、日本のクラシック音楽の普及と発展に力を尽くし、72年の生涯を駆け抜けました。

作家・庄司薫の奥様でもありました。

私はそれほど熱心なファンではありませんが、それでもこの人のリサイタルは3回ほど聴きました(協奏曲は聴く機会がありませんでした)。
小柄な身体からは想像もできない激しさ、「荒っぽい」と言いたくなるほど豪快な演奏にびっくりたもんです。
多少のミスタッチはものともしない推進力、ショパンのワルツがロックに聴こえました。
正直「ちょっとこれはどうなんだろー」と思わんでもありませんでしたが、しかし彼女の演奏、いまだに強く印象に残っています。
何年も前の演奏会の記憶なんて忘れてしまうのが普通ですが、不思議に憶えているのです。
とにもかくにも個性的な演奏スタイルでした。
最後に聴いたのは1990年代なので、まだ若いころですよね、その後の円熟の境地を聴けなかったのは残念。

著者は中村紘子とお付き合いのあった音楽ライター。
内容は、「中村紘子の評伝」としてあるべきものを過不足なく盛り込み、きっちりまとめています。
演奏家の評伝って、論文調で、硬くて重くて、なかなか読み進まないことがままありますが、この本は違います。
面白いエピソードを交えながらの歯切れ良い文章にのせられて、気がつくと一気読みしておりました。
手放しの礼賛に陥ることなく、適度に客観的な筆致は好感度高く、読後感爽やかです。
この人の書いた文章、もっといろいろ読んでみたくなりました。

ひとつだけ不満なのが、装丁が地味なこと。
本屋で平積みしても、これでは目立ちません。
中村紘子にふさわしい、もっと目を惹く、「出る杭」のようなカバーにしてほしかったなあ。

 ショパン/華麗なる円舞曲 作品34−1
 

(2018.04.11.)

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