ヘレン・マクロイ/逃げる幻(1945)
(駒月雅子・訳 創元推理文庫 2014年)



Amazon.co.jp : 逃げる幻 (創元推理文庫)

<ストーリー>
家出を繰り返す少年が、開けた荒野の真ん中で消失―
休暇でハイランド地方を訪れたダンバー大尉が聞かされた不可解な話。
その夜、当の少年 を偶然見つけたダンバーは、彼が何かを異様に恐れていることに気づく。
そして二日後、またもや家出した少年を捜索中におこった殺人事件―
戦後間もないスコットランドを舞台に、名探偵ウィリン グ博士が事件に挑む傑作本格ミステリ。


最近オールド・ミステリ発掘に力を入れている創元推理文庫
新作中心の早川書房に対抗しているのでしょうか。
わたしはどうやら創元推理派らしく、最近のミステリ関係購入本を見ると、
ハヤカワ:創元=1:3の割合となっております。
最近のミステリって、エグイのが多いですからね・・・。

その創元推理文庫から、先日ご紹介したマーガレット・ミラー「悪意の糸」とほぼ同時に刊行された

 ヘレン・マクロイ「逃げる幻」

1945年発表ですが、古さを感じさせない傑作でございました!

ヘレン・マクロイ(1904〜1994)は、以前「暗い鏡の中に」(1950)をご紹介したことがあります。
幻想と論理の見事なバランス、霧が立ち込めたような妖しい雰囲気が素晴らしい作品でした。
この「逃げる幻」は、また違うテイストですが、勝るとも劣らない読み応え。
これほどの作品が邦訳されていなかったとは・・・。

第2次世界大戦終了直後のスコットランドが舞台。
事件にも、小説全体にも、戦争が暗く深い影を落とします。

裕福な家庭の、何不自由ない少年ジョニーは、いったい何におびえ、家出を繰り返すのか?
これだけの謎で小説を引っ張ってゆくマクロイの筆力には素晴らしいものがあります。
スコットランドの荒涼かつ雄大な風景描写も素晴らしい。
ここって「嵐が丘」の舞台っすか?(←よく知らん)
半ばを過ぎて、ついに殺人事件が発生、物語は緊迫しますが、
終盤にいたるまで、いったいどこに着地するのかさっぱりわかりませんでした。

4分の3を過ぎたあたりでようやくウィリング博士が登場、
そこからの怒涛の展開は実に見事、真相がわかってみれば「これ以外ありえなかった!」と納得する素直な私。
今回も気持ちよく騙されました。

犯人像が非常に印象的でした。
まぎれもなく戦争が生んだ犯罪であり犯人であることに粛然としましたが、
小説全体のトーンは暗くなく、読後感も良好なのが、オールド・ミステリの良いところ。
ハイレベルのエンタテインメント・ミステリでありました。

ヘレン・マクロイには、まだまだ未訳作品があるようです。
今後の翻訳に期待したいですね。

(2014.9.13.)

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