コニー・ウィリス/ドゥームズデイ・ブック (1992)
(ハヤカワ文庫 2003年、 親本は1995年)


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<ストーリー>
2054年、時間旅行が実用化され始めた時代。
オックスフォード大学歴史学部の女子学生キヴリンは、念願かなって、14世紀のイングランドに送り込まれることに。
転送は無事に完了したものの、熱を出して倒れてしまった彼女は、領主ギヨーム卿の家来に助けられます。
卿の一行は近くの村に滞在しているのですが、卿自身は不在。 卿の母と妻、幼い娘達が留守を守っています。 
何か事情があるようです。
いっぽう、21世紀のオックスフォードでは、タイムマシンのオペレーターが突然倒れたのを皮切りに、
原因不明の熱病が蔓延、大学は隔離されてしまいます。
キヴリンの指導教授ダンワージーは、熱病の危険にさらされながらも、キヴリンを回収しようと手をつくします。
はたして彼女は無事に未来に戻れるのでしょうか?



もしあなたが、長くて読みごたえがあって、面白い読み物をお探しなら、これ、おすすめです。
物語が動き出すまで(上巻の3分の1くらいまで)は、人物関係が把握しづらくてちょっと苦労ですが、
そのあとはもうスイスイスイ。
時間旅行SFとはいえ、頭が痛くなるようなタイム・パラドックスは出てきませんし、
タイム・トラベル理論を長々と聞かされる心配もありません。
「謎の熱病の正体は?」「ギヨーム家の人々は何を恐れているのか?」といった謎は、
読み進めていけば糸がほどけるように自然に解けてくるので、謎解きにアタマを悩ませる必要もありません。
悲しいストーリーではありますが、ラストには救いが用意されているし、
病と闘う人々の姿は14世紀も21世紀も同じように崇高で感動的。
かと思えば、全編にスラップスティックなギャグもちりばめられていて、かなり笑えます。

各種登場人物のキャラクターはよく立っていて、印象的な人物がいろいろと。
私のお気に入りは、21世紀側で大暴れするミセス・ギャドスン
彼女の息子で、どんな女の子もイチコロ(!)のウイリアム君もなかなか良かったな。
それに14世紀イギリスの生活描写も細かく描かれていて、とても興味深いです。
ギヨーム卿の二人の娘、ロザモンドとアグネスは、やや類型的な描かれかたですが、
二人がけんかする様子など、「うちの娘達と同じだ〜」と思って目を細めながら読んでたもので、
最後のほうはちょっと辛いものがありました。

アメリカで、ヒューゴー賞、ネヴィラ賞、ローカス賞という、SF3大タイトルを独占した作品ということで、
もっとSF・SFした作品かと思ってたのですが、実はシンプルな人間ドラマでした。
いかにもアメリカ的なエンタテインメント小説ですが、キャラクターの書き込みがうまいせいか、ついつい感情移入して読まされてしまいます。
そのせいか今でも私の頭の中に、ギャドスン夫人がときどき登場してきて暴れます(どひ〜)
ダンワージー教授も老体に鞭打って走り回ってます・・・(ガンバレ!)

(03.4.6.記)



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