コニー・ウィリス/航路(ソニー・マガジンズ 2002年)


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<ストーリー>
 認知心理学者のジョアンナ・ランダーは、デンヴァーの大病院で臨死体験(NDE)を研究しています。
 臨死体験というのは「身体がふわふわと宙に浮いてトンネルの向こうに光が見える」とかいうあれですね。
 そのメカニズムを科学的に解明するため、 院内の臨死体験者に聞き取り調査を行っているのです。
 病院では、「臨死体験こそは天国の神からのメッセージ」という内容のベストセラー本を書いた
 ノンフィクション作家モーリス・マンドレイクが、続編の取材中。
 ジョアンナは彼との不毛な議論にエネルギーを消耗し、もっぱら逃げ回っています。
 神経内科医リチャード・ライトは、擬似NDEを薬物によって作り出し、
 その際の脳を特殊なスキャンで記録する実験を立ち上げ、ジョアンナに協力を求めます。
 実験は順調に滑り出したかに見えましたが、さまざまなアクシデントから深刻な被験者不足に。
 ついにジョアンナ自らが被験者となります。
 ところがNDE状態で彼女が見たものは・・・。


以前「ドゥームズデイ・ブック」をご紹介したコニー・ウィリスの2001年作品。
厚さとテーマの割りに、面白くかつ軽く読めます。
映画オタクのウィリスだけあって、あちこちに映画のウンチクが出てくるのですが、
あまり映画を見ない私でもけっこうおもしろがれます。
そしてストーリー展開やシーンのつながり、たくさんちりばめられたギャグなど、
この小説自体、非常に映画的かつアメリカ的。

ギャグをもうちょっと減らしたら格調高くなるのになあ、と思わないでもありませんが、
軽いギャグをかましつつ重い話を動かしてゆく、というのがどうやらウィリス流。
もちろんストーリー自体の吸引力もすごい。
3部構成になっていて、第1部は、ジョアンナがNDEで見たものは何なのか、という謎で引っ張ってゆきます。
この謎がとんでもないところに着地して第2部が始まり、
そのラストではさらにとんでもないことが起こります。なにしろ主人公が××××××のです!

第3部の扉には、
 「さて、このあともう一幕ありますが、
  どんな話になるかは みなさんもう お察しのことでしょう」
 ソーントン・ワイルダー「わが町」より
というエピグラムが掲げられているのですが、
恐らく10人が10人とも「さっぱり見当もつかんわっ!」と叫ぶことでしょう。
(わかって書いているウィリス、なかなか意地が悪い?)

第3部では、なるほどこの手があったか的にとどこおりなくストーリーが展開してゆき、
読者は何かに憑かれたようにひたすらページをめくり続けるに違いありません(私はそうでした)
そして 1部・2部で張っておいた多くの伏線をきれいに回収して、荘厳ともいえるラストへ。
まるで映画のワンシーンのような美しい幕切れ。

・・・こういう紹介ではなんだかよくわかりませんが、とにかく何を言ってもネタバレになってしまうもので・・・。
登場人物の性格はわかりやすいし、ストーリー展開も良い意味で読者を裏切ってくれるし、
最後ではほろりとさせてくれるし、作者の見事な手管にすっかりのせられました。
ただ、これを読んで「人生の意味とは」「死とはなんだろうか」など、深刻に考えるのは、
作者の意図ではないと思います。
面白がりながら楽しく読むべき、レディメイドなエンタテインメント小説であります。
あえて文句をつけるなら、プロットが完璧で隙がなさすぎる、という点でしょうか。
ほとんど言いがかりですが、この作品から優等生の模範解答のような、
あるいはテーマパークのすぐれたアトラクションのような出来すぎ的胡散臭さを感じてしまうほどに、
最近の私はどうやらへそ曲がりなのでありました。
素直な心を取り戻すのだ、木曽のあばら屋クン!(もともとあったっけ、そんなもの?)

(03.8.31.記)


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