チュルリョーニス/ハープの弦に乗せて
(ヨアナ・ダウニーテ:ハープ)
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バルト三国ってご存じですか?
ロシアの西にあるエストニア、ラトヴィア、リトアニアの3つの国です。
便利な覚え方があります。
海を挟んで北にフィンランドがあり、エストニア→ラトヴィア→リトアニアと並んでいますから、
その頭文字をとって、フ・エ・ラ・リ、つまり「フェラーリ」と覚えると忘れにくいのです。
バルト三国からはそれぞれ有名な作曲家が出ています。
エストニアはアルヴォ・ペルト、ラトヴィアはペトリス・ヴァスクス、そしてリトアニアはミカユロス・チュルリョーニス(1875〜1911)です。
チュルリョーニス・・・ややこしい名前です、舌かみそうです、バルト三国の国名より覚えにくいです。
ロシアに支配されていた時代のリトアニアで、貧しい教会オルガニストの家庭に生まれます。9人きょうだいの長男でした。
幼いころから音楽の才能を発揮、支援してくれる人もあり19歳(1894年)からワルシャワ音楽院に学び、1901年から1年余りライプチヒ音楽院にも留学。
やがて絵画にも情熱を注ぐようになり、ワルシャワ美術学校で絵の修業に没頭します。
つまり音楽家であると同時に画家でもあるマルチ・アーティストでした。
あまりにも天才すぎたのでしょうか、30歳から精神に異常をきたし、療養中に肺炎で亡くなりました(享年35歳)。
もともと画家としての評価のほうが高く、ストラヴィンスキーもチュルリョーニスの絵を所有していたと言われます。
彼の絵は幻想的でシュールレアリスティック、当時としては前衛的で大胆で、なんとも言えないパワーがあります。
音楽的なタイトルがついた作品が多いのも特徴です。
前奏曲とフーガ「天使」
1991年にソ連が崩壊しリトアニアが独立したころから、チュルリョーニスの音楽も徐々に演奏されるようになり、いまやリトアニアを代表する作曲家とされています。
ロシア・東欧の作曲家の中でもいち早く無調に踏み込み、画家としてはカンディンスキーに影響を与えたそうです。
さらには独立運動の闘士でもあって、ロシア当局から家宅捜索を受けたこともあり、懐にはいつも拳銃を忍ばせていたとか。
情熱的でエキセントリックな人だったのでしょうね。
このCDは、そんなチュルリョーニスのピアノ曲をハープで演奏したもの。
音楽はそれほどエキセントリックではなく、心象風景を思いつくまま音符につづったような曲が多いです。
ハープだとさらに夢見るようなはかない風情が匂い立ちます。
マズルカ ロ短調 (素朴で寂しげなマズルカ)
ハープで弾いても決して「華やか」という感じではなく、むしろ神秘的で幻想的。
雲の隙間からさす淡い陽の光を連想させます。
ベトついたり、甘さに溺れることはなく、それでいてどこか地に足がついていないような独特の浮遊感。
楽園
ノクターン 嬰ヘ短調 (孤高の気配を感じさせるノクターン)
わかりやすい盛り上がりとかキャッチーな決めフレーズがないので、一度聴いて強く印象に残る音楽ではありませんが、
ノーブルでロマンティックな深い味わいはなかなかに魅力的。
優しげな音楽のようで意外と硬派かつ骨太です、さすが独立運動の闘士。
ソナタ 第6番 アレグロ(←絵のタイトルです)
前奏曲 ニ長調 (シンプルで機知にとんだ短い前奏曲)
(2022.02.17.)