ヴェルディ/歌劇「椿姫」
(マリア・カラス ジュセッペ・サンティーニ指揮 1953録音)



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Tower : La Traviata

今年2023年は、マリア・カラス(1923〜77)の生誕100年。

マリア・カラスと言えばNHKテレビで1974年の来日公演の放送を見たおぼろげな記憶があります。

 

私が初めて買ったカラスのレコードは、ヴェルディ「椿姫」の全曲盤、中学生のころでした。
ただし名演として有名な1955年のコヴェント・ガーデン・ライブでも1958年のリスボン・ライブでもなく、
1953年、カラス30歳のときのスタジオ録音です。

こんなジャケットでした
    ↓
 

じつはこの録音、あまり評判良くなくて、「失敗作」と呼ばれることすらあります。
それはマリア・カラスのせいではなく、オケや共演者たちがカラスと対等に張り合えるレベルになく、カラス一人が突出していてバランスが悪いということのようです。

しかし私はこの演奏が椿姫の「刷り込み」で、文字通りLPレコードの溝が擦り切れるまで聴いたので、
のちにカラスのライブ盤や、クライバー/コトルバスの名盤や、ゼッフィレッリの映画版を知って「いいなあ」とは思っても、
やっぱりこの演奏に愛着を感じてしまうのであります。


そもそもアルフレード役のフランチェスコ・アルバネーゼ君、なかなか頑張っていると思うのです。
   ↓
 乾杯の歌  (「友よ飲み明かそう、心ゆくまで 若き青春の日を!」「命は短く 若き日は儚く消えてしまう だから今を楽しく過ごすのよ!」)
 

もちろんカラスの歌唱は水際立っていて、第1幕の終わりで歌われる「花から花へ」は圧倒的。
鬼気迫るコロラトゥーラの技巧、2点Cの最高音も余裕たっぷりです。
テクニック的にはこの頃が頂点とも言われているとか(その後、表現を深める方向へ)。

 花から花へ (愚かなこと! まことの愛などむなしい夢! 私はパリという砂漠に打ち捨てられた孤独な女 楽しみから楽しみへと飛び歩いて、快楽の渦の中で滅びるのよ!)
 

第2幕、ヴィオレッタとアルフレードの父ジェルモンの長大で素晴らしい二重唱。
ジェルモンに切々と諭され、ついにアルフレードと別れることを決心するヴィオレッタの感情の動きが、劇的だけど自然に表現され、やっぱり天性の女優。
次々に綺麗なメロディが出てくるのでついサラリと聴いてしまいますが、じっくり味わえば深い深い。
ジェルモン役のウーゴ・サヴァレーゼさんは、カラスの邪魔をせず上手に引き立てています(?)。

 第2幕・ジェルモンとヴィオレッタの二重唱 (ヴィオレッタさん、息子と別れてください。娘に良い縁談があるのですが、息子が娼婦と同棲していると先方に知れたら・・・)
 (それにしても美しい旋律のつるべ打ち、長さを感じさせません)

第3幕、瀕死のヴィオレッタとアルフレードの二重唱「パリを離れて」でのカラスの声ははかなげで
「なるほどこいつは病人だ!」と納得させられます。
いやもちろん瀕死の病人は歌えませんが。

 パリを離れて (愛する人よ パリを離れて田舎で暮らそう そうすれば元気になれるでしょう あなたは私の命で光だから)
 

なおカラスさん、「この程度の元気のなさではまだまだね!」とばかり、その後ライブでさらに弱弱しい迫真の歌唱をしたところ
批評で「カラスは声が衰えた」と書き立てられて激怒したとか。

モノラルですが、スタジオ録音なのでカラスのライブにつきものの雑音はないし、カラスの歌唱は文句なく素晴らしいので
もっと高く評価されても良いと思うんですね。


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