オトマール・シェック/ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 作品21「幻想曲風に」
(ベッティーナ・ボラー独奏 アンドレアス・デルフス指揮 スイス・ユース・シンフォニー・オーケストラ)



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音で描いたラブレター(なお振られた)

20世紀前半に活動したスイスの作曲家 オトマール・シェックOthmar Schoeck, 1886〜1957)。
前衛的な手法には目もくれず、ひたすらロマンティックな作品を書き続け、主に歌曲の分野で活躍しました。
人気・知名度はいまひとつですが、ブラームスを軟弱にしたみたいな作風が個人的には大好き。

ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 作品21 「幻想曲風に」(1912)は30分を超える大曲。
自筆譜の表紙には「シュテフィ・ゲイエルに捧ぐ」と書かれています。
シュテフィ・ゲイエル(Stefi Geyer, 1888〜1956)はヴァイオリニストで、1908年に共演して以来シェックは彼女に恋焦がれていました。
シェックシュテフィに手ずから捧げようと楽譜をもってブダペストに住む彼女のもとを訪ねますが、あいにく演奏旅行で不在でした(間の悪いやつ・・・)。

 

そもそもシュテフィはシェックのことをなんとも思っていなかったようで、
この曲の初演は彼女ではなくチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のコンサート・マスター、ウィルヘルム・フォン・ボイエルが行いました。
なおバルトークも彼女に片思いして、ヴァイオリン協奏曲第1番を彼女に捧げました(でも振られた)。


第1楽章アレグレット。
夢見るような麗しい楽章。
のっけから独奏ヴァイオリンが切ない歌を歌いますが、0:57に登場するメロディがメイン・テーマのようです。
2:46から第二主題らしきものが呈示され、4:22にフルートにでる主題などもあり
いちおうソナタ形式っぽい感じが漂うのですが形式は二の次、独奏ヴァイオリンが甘い憧れを込めた歌を連綿と歌い続けます。
まさに「音で書いたラブレター」なのでしょう。
綺麗な曲ですが、好きでもない男からこんなの贈られたら引いちゃうのかなあ、やっぱり。

 

第2楽章、グラーヴェ・ノン・トロッポ・レント、この楽章もきちんとした形式はないようです。
ちょっと不穏な管弦楽のイントロに続いてヴァイオリンが優しい歌を奏でます。
シュテフィへの思慕と憧憬をこれでもかと言わんばかりに込めて作曲したんでしょう(←重い)。
正直「第1楽章とどこが違うんや!」と言いたくなるくらい似た雰囲気、浪漫街道一直線、もう甘々です。
愛の夢に耽って幸福にまどろんでいる若き作曲家の姿・・・。

 

アタッカで続く第3楽章、アレグロ・コン・スピリトは自由なロンド形式。
軽やかなロンド主題が遊び戯れて華やかですが、どこか無骨な感じもするフィナーレです。
独奏ヴァイオリンはほぼ休みなく踊り続けます。
「シュテフィちゃんと両想いになれたら嬉しいだろうなあ、楽しいだろうなあ」と思いながら作曲したんでしょうか(←泣ける)。

 

響きの耳当たりの良さ、やわらかなリリシズム、とっても美しい曲なんですが、なんだか・・・どこを聴いても均等に綺麗なのです。
金太郎飴っぽいというかメリハリに乏しい感は否めません。
ひたすら一本調子に押せ押せアプローチの不器用な人だったのかなあ。
押してもだめなら引いてみろですよシェックさん!

なお、シュテフィとシェックの音楽的な交流は生涯にわたって続き、シュテフィは1947年にこの曲を録音しています。

(2022.09.17.)

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