サイモン・シン/ビッグバン宇宙論
(文庫版は「宇宙創成」)
(新潮社 2006年)
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ビッグバン宇宙論 (上) |
ビッグバン宇宙論 (下) |
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宇宙創成〈上〉 (新潮文庫) |
宇宙創成〈下〉 (新潮文庫) |
ガラッ八:親分こんちは〜。 おや、珍しく本なんか読んでますね。
親分:おう、八かい。 お前、この宇宙がどうやって出来たか知ってるかい。
八:やだなあ親分、あっしだってそのくらい知ってますって。 宇宙は最初、大爆発から始まったんです。
親:おおっ、すっげー意外! お前がそれを知ってるとは!
八:ビッグジョンって言うんですよ。
親:そりゃジーンズだっ! それを言うならビッグバン!
この本は、「フェルマーの最終定理」 「暗号解読」につづくサイモン・シンの新作。
ビッグバンが、お前のようなやつでも知ってるくらい広まるまでの歴史というか、ドラマだな。
八:ようなやつで悪うござんした。 しかしなんだかムツカシソウな本ですねえ。
親:いやいや、そこは科学ノンフィクションの第一人者サイモン・シン、
難しいことをわかりやすく説明して、しかもレベルを落とさないんだなこれが。
数式はほとんど出てこないが、ちゃんと内容は理解できる。
八:そりゃたいしたもんだ。
親:そして、科学の進歩の裏で繰り広げられる人間ドラマ、これが面白い。
そもそも、宇宙が膨張していることは、アインシュタインの一般相対性理論から、
ロシアのフリードマンやベルギーのルメートルが1920年代に理論的に導き出したんだそうだ。
ところがアインシュタイン自身は、宇宙は不変だと考えていたので、これを「忌まわしいもの」と批判した。
八:ひえー、アインシュタインがでやんすか?
親:マーク・トゥエインが言っている。「科学者というものは、自分が発案したわけでもない理論に好意を示したリはしない」
しかし1929年、アメリカのハッブルが、すべての恒星が地球から遠ざかっていることを観測で証明する。
このハッブルという人物、いまでは巨大望遠鏡の名前になってるほどだが、なかなか豪快で面白い人だ。
八:それでビッグバンは証明されたんですよね。
親:いや、ビッグバンを否定し、定常宇宙を支持する人は、それでもたくさんいたんだ、それも一流の科学者の中に。
「宇宙に始まりがあり、ひょっとしたら終わりがある」ことは、感覚としてなかなか受け入れにくいんだよ。
八:なるほどねえ。
親:フレッド・ホイルという人がいる。
偉大な仕事をたくさん成し遂げた物理学者で、シンはホイルがノーベル賞を受賞しなかったのは不当だとまで言っている。
彼は定常宇宙論者で、最後までビッグバンに反対し続けた人物だが、
皮肉なことに「ビッグバン」の名づけ親は、ホイルなんだ。
八:反対してたのに、名づけ親ですかい。
親:ホイルは1950年に出演したラジオ番組で、膨張宇宙論をはじめて「ビッグバン」と呼んだ。
彼はライバル理論を揶揄したつもりだったんだが、この呼び方はあっという間に世界中に広まってしまった。
実際、膨張宇宙論が一般市民の間にまで浸透したのは、この「ビッグバン」という親しみやすい呼び名のおかげ。
ホイル氏、ものすごく複雑な気持ちだったらしい。
八:科学史上最大のオウン・ゴールって感じですね。
親:この本には有名無名たくさんの科学者が登場するが、
一番印象に残ったのはヘンリエッタ・リーヴィット(1868〜1921)という女性天文学者。
彼女は、地道な観測と研究の結果、恒星までの距離を測る方法を初めて発見するんだが、
世間に認められる直前に癌のため世を去ってしまった。
八:そりゃ気の毒なことで。 ところで、どうしても不思議でしかたがないんですが。
親:なんだい。
八:宇宙がビッグバンで始まったのなら、その前はどうなっていたんですか?
親:それこそが難問中の難問なんだ。 お前もひとつ考えてみちゃどうだい。
八:わかりやした。 それではあっしはしばらく山にこもりますんで、親分、あとはよろしくお願いします。
親:よしわかった・・・って、こ、こらー、仕事サボる気だなー!
(06.7.9.)