チェチーリア・バルトリ/禁じられたオペラ
(2005)



Amazon.co.jp : 禁じられたオペラ


「楽器としての声」の極限

18世紀初頭の10年間、ローマでは「オペラは倫理上問題あり」と教皇から禁じられ、
オペラに代わる音楽的手段として、オラトリオが空前の隆盛をみることとなりました。
バルトリは、彼女の生まれ故郷であるローマにおけるこのユニークな一時期の作品に光をあて、
輝かしい歌唱で、知られざる数々の作品を生き生きと蘇らせています。

   

・・・と、日本盤CDの帯には書かれているのですが、そんな能書きはすぐにどうでもよくなってしまうのでありました。
チェチーリア・バルトリのダイナミック&エネルギッシュな歌唱、
それを支えるというか煽り立てるミンコフスキ指揮・ルーブル音楽隊の面々。

速い曲は超絶技巧コロラトゥーラてんこ盛り、細かい音符がコロコロしまくり。
スローナンバーは芯の強い声で、慰めるように、むせび泣くように、ときに脅しあげるように歌われます。

トラック5 カルダーラ「淫らな肉欲は毒を振りまくがよい」(すごいタイトル・・・)の迫力、
中途半端なロケンロールなど目じゃないです。

 

いっぽう、トラック10 ヘンデル「棘はそっとしておき、薔薇をお取り」の静謐で気高い歌唱は、第一級のヒーリングミュージックであります。
ていうか、これって歌劇「リナルド」の有名な「涙流れるままに」とおんなじメロディじゃないすか!!

 

さて、女性ヴォーカルつながりということで、少し前にご紹介したジェニファー・ウォーンズ「Famous Blue Raincoat」と比べた場合、
どちらが音楽として品があるかといえば、これはもう疑いもなくジェニファー・ウォーンズ。
ジェニファーの、お洒落で都会的な雰囲気に対し、バルトリの歌からは、血と汗と涙がほとばしってます。
生きる喜び、愛の悲しみ、死への恐れなど、ナマの感情を盛り込んだ曲と歌唱は、
18世紀音楽の粗野で猥雑なエネルギーを、300年後の東洋人にも感じさせてくれます。
おそらくこれらの曲は、当時のローマ市民にとってのヒットナンバー、流行曲だったのですね。

  ヘンデル/開け、地獄の扉よ(なにげにインパクト強いタイトルが多い・・・)
 

なお「オラトリオ」というのは、宗教的内容を歌った管弦楽つき声楽曲。
オペラと違って演出とか衣装はなく、演奏会形式で行われます。
ベートーヴェン「第9」の第4楽章は一種のオラトリオと呼べるかもしれません。

(06.3.3.)



「音楽の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ