椰月美智子/みきわめ検定・枝付き干し葡萄とワイングラス
超短編を含む短編集
(講談社 2008年)

みきわめ検定 枝付き干し葡萄とワイングラス


今日、3月7日・土曜日は、久しぶりのオフ。
完全オフ、略して完オフ(←あまり略せてない)
まる一日、全く職場に顔を出さなくて良いのであります。
いやあ、開放感あるなあ〜。

夕べは興奮してなかなか眠れませんでした。
なのに今朝は嬉しくて早起きしてしまいました。 子供か。

家でゴロゴロ、ボーッとしながら本を読んで過ごしました。
休養休養。
休みの日にどこかに出かけるのは気分転換にはなりますが、
それを休養と勘違いしてはなりません(とくに40歳以降)
家でじーっとして、ひたすら英気を養うのであります、ちょっと辛気臭いですが。

幸か不幸か子供たちも、「どこか連れてって!」とまとわりついてくる年ではありませんし。
上の子(中2)は、朝から部活に出かけました(元気だ・・・)

ダラダラしながら読んでたのは椰月美智子さんの短編集。
のんびりした休日にぴったりの選択でした。
とくに「枝付き干し葡萄とワイングラス」に収められた
「風邪」という短編がツボにはまりました。

主人公(女性)が、風邪(というかインフルエンザ)にかかって、
熱を出して数日寝込んで、無事に治るまでを描いた、
わずか12ページの作品です。

熱にうかされながら頭をよぎるイメージが大変リアル。

ちょっと引用
「体のそこいらじゅうが痛い。一人暮らしの父を思う。自分は世界一親不孝な娘だと思う。
 申し訳なくて、ばちが当たったんだと思う。 弱気になる。
 仲の良い一人暮らしの友人たちを思う。 さみしくはないだろうか?
 未来の自分の子供を思う。 子供が発熱したら、それはどうしようもなくかわいそうだと思う。
 彼女は泣きたくなる。 寒さと熱さが交互に彼女を襲う。」
(35ページ)

そして天井にはお化けがぶら下がっていて、目玉が取れちゃいそうな気分になるのです。

わかるわかる、著者の実体験でしょうねこれ。
私はここ数年寝込んだことはありませんが、
「確かにこういうこと考えるよなあ、弱気になるよなあ」と、うなずくことうなずくこと
(子供のころはヒヨワでよく寝込んだものです)

主人公はひたすら水分補給しながら寝てなおす方針、
医者に行こうとは全然考えないところもいいですねえ、気が合いそう。
最後の一行「それで風邪は治る」が、なんとも清清しい。

クラヲタ的につい連想してしまうのが矢代秋雄の「ピアノ協奏曲」(1967)の第2楽章。
作曲者によるとこの楽章は、「子供のころ熱を出すとしばしば襲われた怖ろしい夢の思い出」なんだそうで、
単調なオスティナート・リズム(43回繰り返される)の上に、
妖しいもの、妙なもの、怖いものが次々にあらわれては消えてゆきます。
どういうわけか大好きなんですよこの曲。


  You Tube:矢代秋雄「ピアノ協奏曲」・第2楽章


2冊同時刊行、どちらも大変楽しんで読ませていただきました。
「みきわめ検定」のほうは主に結婚前の男女が登場し、
「枝付き干し葡萄とワイングラス」は結婚後の男女が主人公となる作品を収録してます。
いろいろな人の日常をさくっと切り取ってきた、という感じの短編集。
ドライで客観的な筆致です。
著者はレイモンド・カーヴァーをリスペクトしていて、
「自分もそういうものを書きたい」と思った、ということ。
言われてみれば「みきわめ検定」所収の「クーリーズで」など、
最後の「放り出しかた」がいかにもカーヴァーっぽい。
でも私などが言うのもおこがましいですが・・・「むしろカーヴァーより面白かったです!」

(09.3.7.)


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