シャネル・ベンツ/おれの眼を撃った男は死んだ(2017)
(高山真由美・訳 東京創元社 2020年)



Amazon : おれの眼を撃った男は死んだ


19世紀アメリカ西部の田舎町、現代アメリカの壊れた家庭、黒人奴隷が使役される南部の農場、砂に埋もれたユートピア、16世紀イギリスの修道院・・・。
さまざまな時代と場所で、夢も希望もなく、血まみれで生きる人々。
人間の本質を暴き出し、一瞬の美しさを切り取った、O・ヘンリー賞受賞作「よくある西部の物語」ほか全10編収録のデビュー短編集!


まずは著者の名前のインパクトがすごい。

 シャネル・ベンツ

なんつうバブリーなペンネームだ、そっちが「シャネル」と「ベンツ」なら、こちらは「ソニー・トヨタ」だ文句あるかなどど思ってたら、なんと本名だという衝撃。
スペルはCHANELではなくCHANELLEですけど。

 

デビュー短編集「おれの眼を撃った男は死んだ」、ハードです、甘くありません。
血なまぐさくて、破壊的で、暗くて、暴力と欲望と砂ぼこりの匂いが漂います。

冒頭の一編、「よくある西部の物語」は、東京創元社のサイトで読むことができます。
   ↓
 よくある西部の物語

南北戦争が終わったころのアメリカ西部、両親を亡くし親戚に引き取られていた少女を、十数年ぶりに会う兄が迎えに来ます。
肉親との再会で始まりますが心温まる要素はカケラもなく、破滅に向かって突き進むストーリーと救いのない結末には呆然とさせられます。

 最高です

これがビビッとくれば、ほかの作品も楽しめるはず。
語り口は凝っていて、作中作、時系列シャッフル、謎を残した終わり方など、様々な小説的技巧がちりばめられています。
作品の舞台も、16世紀イギリスだったり、現代アメリカだったり、近未来ぽいどことは知れない場所だったり様々ですが、
全体を通して引き締まった統一感があります。

なおタイトルである「おれの眼を撃った男は死んだ」は短編の題名ではなく、ある登場人物のセリフの一節。
こういうところも「うまいなあ」と思っちゃいますね。

硬質なノワール小説である、ジャン・パトリック・マンシェットの作品と通じるものがあるような気がしますが、
死と破壊を扱ってもシャネル・ベンツにはどことなくお洒落な雰囲気が漂います。
そこがかえって怖かったりもするんですが・・・。

(2020.10.02.)

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