ジャン=パトリック・マンシェット/愚者が出てくる、城寨が見える
(1972)
(中条省平・訳 光文社古典新訳文庫 2009年)



Amazon.co.jp : 愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える



<ストーリー>
精神を病み入院していた不良少女ジュリーは、
障害者をすすんで雇用することで知られる企業家アルトグに雇ってもらえることになり、
彼の甥でわがまま放題の8歳の少年ペテールの世話係となる。
ある日公園で、ジュリーとペテールは4人組のギャングに誘拐される。
ギャングのアジトからなんとか脱出したふたりだが・・・。


クール&叙情的に描く破壊と破滅の美学


先月からの怒涛の忙しさが、ようやく一段落つきました。
2月6日・7日の土日は久々のオフです。 う、うれしー。
三週間ぶりに泳ぎに行ってきました!
うーん、やっぱりなまってるなあー身体、取り戻すにはちょっとがんばらないと。
でも無理すると体調崩すから、のんびりやろう・・・(こうして徐々に衰えていく)

明日8日の月曜日から、また元気に働くべく、
今は平穏な土曜・日曜を過ごさせていただきます。 感謝感謝。


そう、平穏を愛することでは、人後に落ちない私です。
マッド・ハッターではありませんが、「なんでもない日万歳!」と賛美したい気持ちで心は満ちあふれています。
好きな言葉は「無事これ名馬」 「ふつうがいちばん」 「世はなべてこともなし」
・・・・・我ながら面白味のないやっちゃなー。


そんな私ですが、どういうわけかこの平穏さのかけらもない小説に、心を捉えられてしまいました。

 まともな人間、ひとりも出てきません!
 みな顔色も変えずに人を殺してばっかです!
 おまけに最後にはほぼ全員、死ぬか重傷を負います!

チョー殺伐とした物語。 なんなんですかこれは。

しかし、淡々と語られる滅茶苦茶な展開に、なぜだか引き込まれてしまうのです。
破壊と破滅に向かって憑かれたように突っ走る、壊れまくった登場人物たちに、
いつの間にか共感している自分。
あらびっくり。

ヒロインのジュリーにしてからが、やっとの思いで誘拐犯から逃れたのに、
「警察」と聞いただけでひきつけを起こすほどの不良少女であるために、
ペテールを連れたまま誘拐犯から、ただ逃げ回ります。
そして彼女の精神と行動はついに一線を越え・・・。

ふたりを付けねらう殺し屋トンプソンは重症の胃潰瘍。
血を吐きながら拳銃片手にジュリーたちを追う姿の壮絶。
ジュリーの雇い主アルトグも、どこかイカレているし、
いやホント、まともな人間誰も出てきませんー!
それなのに最高に格好良くて面白いのですー!

ジュリーとペテールが殺し屋たちと対決するクライマックスの不思議な美しさ。
短いセンテンスを連ねて、どちらが善でも悪でもない、ほとんど意味のない殺戮の応酬が、
乾いた透明な筆致で詩のように描かれます。
繰り返しますが不思議に美しいです。


短い小説ですが、著者のマンシェットは推敲を繰り返し4年の歳月をかけたそうです。
たしかに、どこにも無駄のない、引き締まった文章。
殺し合いの物語にもかかわらず、全体が一編の詩のよう、と言っても良いくらい。

荒涼&殺伐として、同時に硬質で美しい。
奇妙で忘れがたい小説です。

(10.2.7.)


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