鶴我裕子/バイオリニストに花束を
(中央公論新社 2010年)




Amazon.co.jp : バイオリニストに花束を


先日、夕食時に次女(もうすぐ14歳)が、
「10歳と14歳といったらかなり差がある感じだけど、40歳と44歳だと、あんまり違わないよね」
と言ったら、即座に女房、
「ぜんぜん違う! 身体の衰えがっ!」
・・・・女房、もうすぐ4×歳です。
誕生日には花束でもプレゼントするとしましょうか。

さて花束といえば、本書「バイオリニストに花束を」は、
「バイオリニストは目が赤い(バイオリニストは肩が凝る)」に続く、待望の鶴我裕子さんエッセイ第2弾。

いやホントに待望してましたから。

この人のエッセイは、基本的にお笑い狙いではありますが、
さりげない余裕と上品さが感じられて、好きなのです。
「こういう文章書けるといいなあ〜」と思いながら、今回もガハハと一気読み。

福岡出身、山形育ち、家業が傾き苦しいなか東京芸大を卒業し、
1975年から2007年まで32年間にわたってN響のバイオリニストを勤めあげた方。
並々ならぬ苦労と精進があったことと思いますが、
軽妙でリズミカルな文章は、楽しくもおちゃらけていて、苦労や汗を感じさせません。
オトナですねえ、バイオリンだけでなく人生の達人ですねえ。

中3で単身東京に出て、知人の知人(つまり他人)の家に寄宿するときも

 家の中はシンとして、家族構成は、旦那さま、奥さま、お手伝いさん、セッター(猟犬)だった。私はビン底メガネを曇らせて緊張していた。
 二階の一室をあてがわれ、奥さまの「自分のうちだと思ってね」という言葉を真に受けた。
 その日から、田舎の家でしつけもされずに暮らしていた私のすることはすべて、この上流家庭をかき乱した。
(25ページ)

・・・達人というより、単に笑いを取らずにはいられないだけかもしれません。

気に入ったフレーズをちょっとだけ引用。

  オペラの楽屋って、好きだなあ。オーケストラの楽器の音が、いつもしていて、
  話し声もベルカントの声楽家たちが、ノッシ、ノッシ、と歩き回り、時々動物が吼えるように歌う
(16ページ)

  ブルックナーもマーラーも、終楽章が決まって長く難しい。特にマーラーは、無法地帯が100キロも続くような内容で、
  「お気持ちはよーくわかりましたから、そろそろ勘弁して」と思い始めてから、まだ8ページも残っている
(49ページ)

N響定年退職時に贈られた巨大なランの鉢植え。
贈り主の意外な正体が明らかになる「N狂釈放後」という話が、とくに鮮烈な印象を残しました。


(10.5.30.)


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