レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ <イギリスの声>をもとめて
(サイモン・ヘファー著 小町碧・高橋宣也:訳 2022)



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ヴォーン・ウィリアムズ はお好き?


イギリスの作曲家・指揮者のコンスタン・ランバートの言葉をご紹介します。

 エルガーの交響曲を好まないチェコ人に対して我々は
 「それでも、この曲のオーケストレーションの見事なことは認めざるを得んでしょう」 と主張することができる。
 しかし、ヴォーン・ウィリアムズの「田園交響曲」を好まないチェコ人に対しては、
 「なるほど、お気に召さんでしょうなあ」 と言うしかない。


この言葉、ヴォーン・ウィリアムズを軽くディスっているように見せかけて実は、

 「ヴォーン・ウィリアムズの音楽は我々イギリス人にしかわからないのさ!」

とドヤっているわけですね。

 ヴォーン・ウィリアムズ「田園交響曲(交響曲第3番)」 第1楽章
 (第1、2、3楽章がすべてモデラートで、第4楽章がレントという不思議に美しい交響曲)


 サイモン・ヘファー著:レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ <イギリスの声>を求めて

イギリス独自の音楽を確立した作曲家 ヴォーン・ウィリアムズ(1872〜1958)の、本邦初の本格的評伝。

18〜19世紀のイギリスには、ドイツ・オーストリア・フランス・イタリアと張り合える大作曲家が一人もいません。
19世紀末にやっとエドワード・エルガー(1857〜1934)が登場しますが、
エルガーはまだドイツ音楽の延長上にあり、「イギリス独自の声」を持つには至っていないのだそうです。

そこに登場したヴォーン・ウィリアムズはイギリス民謡、チューダー朝教会音楽、英国文学などを研究しつつイギリスならではの音楽を追求、
「イギリス国民楽派」ともいうべきジャンルをほとんど一人で確立しました。
偉い人だったんですね〜。

じつを言えば私はヴォーン・ウィリアムズの熱心なファンではなく、
いちおう交響曲全集のボックスセットは持っていますが第5番以外はほとんど聴いた記憶がありません。
(「第5番」はなぜか大好きなんですよ〜)

 交響曲第5番 第1楽章
 (1943年、第2次世界大戦のさなかにどんな思いでこのような曲を・・・)

若いころモーリス・ラヴェルに師事したというのは「へえ〜」でした(ラヴェルのメカニカルな軽妙さとは対極のような気が・・・)。
そしてグスターヴ・ホルスト(1874〜1934)とは肝胆相照らす盟友。
「惑星」を聴けばわかるようにホルストはオーケストレーションの技術ではヴォーン・ウィリアムズを凌駕するほどでした。
ヴォーン・ウィリアムズの新作のリハーサルを聴いていた時のエピソード。

 ある箇所で、ホルストは「うまくいっていない。彼に伝えなければ」と言い、ステージ上のヴォーン・ウィリアムズに話しに行った。
 作曲者は演奏者たちに説明し、修正が行われた。
 「その部分をもう一度やってみたら、なんと音が変わったことか! 厚くて不明瞭だったのが明快になった。
 ホルストはいつも難題を根本から治すことができる。素晴らしい外科医のようだ」
 (106ページ)

それだけに1934年のホルストの死は大きなショックでした。
ヴォーン・ウィリアムズはその後も精力的に作品を送り出し国民的尊敬を集めますが、晩年には主に音楽関係者から批判を受けたそうです。

 イギリス音楽を文化隔離施設のようなものに入れてしまい、ストラヴィンスキー、ベルク、シェーンベルクなどの理知的に進んだ音楽の影響を遮断したというのである。
 イギリス音楽は、いわゆる普遍言語をもっととりいれていれば、もう少し広く外国に届くことができたのではないかという思いである。
 (192ページ)

まあ偉大になればなるほど、いろいろ言う人が出てくるものです。
ただシベリウスやショスタコーヴィチに比べると、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲はいまだ世界的な人気を得ているとは言えないことは事実ですね。

1958年4月に最後の交響曲「第9番」が初演されましたが、評論家からの評価は芳しいものではありませんでした。
しかし同年8月のBBCプロムスでの再演が好評を博したのを見届け、8月25日に85歳で世を去りました。

 交響曲第9番 第1楽章
 (85歳にしてこのエネルギッシュさよ!)

本書は翻訳ものにありがちな持って回った言い回しが少なく、専門用語も使ってなくて読みやすかったです。
翻訳者のひとり、小町碧 氏はイギリス在住のヴァイオリニストで、ヴォーン・ウィリアムズのスペシャリストとのことです。

 ヴォーン・ウィリアムズ「ひばりは昇る」 (ヴァイオリン独奏・小町碧) (「揚げひばり」と言われると「居酒屋のメニューかよ!」と突っ込んでしまう私です)
 

 ヴォーン・ウィリアムズ「ロマンス」 (ヴァイオリン独奏・小町碧)
 (ヴォーン・ウィリアムズの生家での収録だそうです)


 

(2023.01.21.)


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