今野敏/初陣・隠蔽捜査3.5
(新潮社 2010年)
Amazon.co.jp : 初陣 隠蔽捜査〈3.5〉
人気の警察官僚コメディ(←違う)、「隠蔽捜査シリーズ」。
待望の新作、第4弾です。
しかし「隠蔽捜査3.5」とはこれいかに??? と思ったら、
今回の主人公は、あのカタブツで唐変木で朴念仁で仕事魔の竜崎伸也でなく、
同期で友人兼ライバルの伊丹俊太郎。
微妙にスピンオフな短編集なのでした。
本編では豪放磊落で洒落者なイメージの伊丹、
しかしじつは・・・
<伊丹は、快活で細かいことにこだわらないタイプを演じていた。おしゃれでものわかりのいいキャリア。
そして、その演技はそこそこうまくいっており、周囲の信頼を勝ち得てきた。
だが、実際にはものすごい心配症であることを自覚していた>(86ページ)
いやあ、そうだったのね、一気に伊丹に親近感わきました。
警視庁の刑事部長に栄転した伊丹ですが、次々に押し寄せる難題にきりきり舞い。
困り果て、いまは大森署の署長に左遷されている竜崎に電話で助けを求める、というのがこの短編集の基本パターン。
竜崎は露骨にめんどくさそうにしながらも、
彼一流の「理詰めで割り切っているようで実は柔軟かつ意外な解決策」を提案、
伊丹の眼からポロリと鱗が落ちてめでたしめでたし・・・・・まるで「一休さん」の世界やないか!
じつに楽しいです、わっはっは。
竜崎は実際にはほとんど登場せず、電話で話すだけ。
伊丹の説明を聞いて、その場で解決策を指示する「竜崎電話相談室」です(ラジオ番組かい)。
読者も「その手があったか!」と思わず膝を打ち、ああ快感。
一種の「安楽椅子探偵もの」としても読めますね。
伊丹から見れば神のごとき英知のかたまり・竜崎ですが、
本編を読んでいる読者は、竜崎もまた嫉妬や疑心や恋心に悩むことがあるうえ、
小学生のとき伊丹たちのグループにいじめられたことを今でも根に持っていることを知っているので、
思わずニンマリしてしまいます。
本編とも密接にリンクしています。
「あれはこういうことだったのか」「ウラではこうなっていたのか」とわかるのが楽しいです。
藤本警備部長、オモロイけどムチャクチャ人が悪いな・・・。
今回も登場人物の9割以上はオッサン、色気が無い事はなはだしいですが、
とにかく面白い! 続きが楽しみなシリーズです。
(10.11.3.)