今野敏/隠蔽捜査シリーズ
(新潮社 2006〜2009)

隠蔽捜査 (新潮文庫) 果断―隠蔽捜査〈2〉 疑心―隠蔽捜査〈3〉

<ストーリー>
超優秀エリート警察官僚・竜崎伸也
警察庁長官官房としてマスコミ対策を担っている。
そのカタブツ・唐変木・朴念仁・仕事魔ぶりは、周囲からは“変人”扱い。
だが竜崎はこう考えていた。
「私はエリート警察官僚だ。
エリートは国家を守るため、全身全霊を捧げるのが義務だ。
私は当たり前のことを普通に行っているにすぎないのだ」


「まったく新しい警察小説」
とも言われる、今野敏「隠蔽捜査シリーズ」
たしかに、エリート警察官僚を主人公にした警察小説は新しいというか珍しいですが、
そんなことよりもとにかく圧倒的に面白いのであります。

超カタブツ唐変木の主人公・竜崎伸也のキャラクターが際立ってます。

 「家庭のことは妻の仕事だ。私の仕事は、国家の治安を守ることだ」(「隠蔽捜査」8ページ)

 「竜崎にとって東大以外は大学ではない。(中略)竜崎自身も東大卒だ。
  それが省庁で生きていく最低の条件なのだ。
  実力はその条件をクリアした者でなければ発揮できない」
(「隠蔽捜査」10ページ)

・・・どれだけゴーマンなやつだよ!
と呆れながら読み始めれば、あっという間に作者の術中にすっぽり。
この主人公、他人以上に自分にも厳しいし、
「国家の治安を守る」ためならば誰にも平気で盾突きます。
第一作では「真実」よりも「警察のメンツ」を優先する上層部に敢然と立ち向かいます。
つまり上にも下にも平等にゴーマン、バランス取れてます(そうかあ?)

もっとも妙に執念深いところもありまして、
小学生のとき同級生の伊丹たちのグループにいじめられたことを
40歳過ぎた今でも根に持っています。
その伊丹も、どういう偶然からか警察官僚になっています。
向こうは、いじめのことなどすっかり忘れて同期づきあいしてくるのですが
そのたびに頭に血をのぼらせる竜崎、なかなか可愛らしい。

しかも出世競争まっただなかの官僚なので極度に疑り深い
大きな仕事を任せられると、「自分を失敗させ、失脚させるための罠に違いない」と思い込みます。
単に有能だから任せられただけのように思うんですが・・・。
結局、「国家の治安を守ることが私の使命だ」と引き受けるんですけどね。

あと、「風の谷のナウシカ」見て涙が出るほど感動したりします。
これはちょっとヒイタ。

・・・えーと、このような紹介だと、「お笑い小説」と思われる恐れがありますが、
警察機構については非常に緻密&リアルに書き込まれていて、
「組織の非情さ」もじっくり味わえ、
大変読み応えのある警察小説です。

第一作「隠蔽捜査」の最後で竜崎は、
自分もかかわりのある不祥事をつつみかくさずに申告し、
降格処分を受けます。

第二作からは、降格されて赴任した大森警察署が舞台となります。
ここでも「竜崎伸也と愉快な仲間たち」は大活躍。

このシリーズ、まだ先があるようです。
続きが楽しみなシリーズがまたひとつ増えました。

(09.7.25.)


 2010年11月・追記 : 「初陣・隠蔽捜査3.5」が出ました。

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