有吉佐和子/連舞(つれまい)乱舞(みだれまい)
(1963 & 1967)

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<連舞>
戦前の東京。日本舞踊の名門梶川流の師匠を母とする異父姉妹。
妹・千春は宗家家元の血を享けた踊りの天才、姉・秋子は家元の血を持たない凡庸な踊り手。
戦後の混乱期、梶川流の存亡を賭け、秋子が進駐軍の前で挑んだ舞台は彼女たちの人生を予想もつかぬ方向へ導いていく―。

<乱舞>
昭和30年代、日本舞踊界の中心的存在として隆盛を迎えた梶川流。
将来も安泰に思えたある日、秋子の夫である家元・猿寿郎が交通事故死。
さらに家元の血を継ぐと称する隠し子たちが、未亡人秋子の前に次々と現れる。
妹・千春や母・寿々までが跡目争いを繰り広げるなか、梶川流を守るため、秋子が選んだ道とは―。


四十代からチェロを始めて、十年が過ぎました。
先生について、こつこつ練習しているのですが、上達速度はカメの歩み。
どうやら自分は天才的才能の持ち主ではないことに、うすうす気づいた今日この頃 (←遅い)。

バッハの無伴奏チェロ組曲を繰り返し練習しているのですが、いまだに第1番すらまともに弾けません。
一生練習し続けても満足することはたぶんないでしょう。
でもある意味、死ぬまでやっても飽きないゲームを手に入れたようなもの、遊んでも遊んでも終わらない最高のソフトかもしれません、これ。

まあ芸事に終わりはないことなど、今更私が言うまでもありません。

 有吉佐和子/連舞(つれまい) 乱舞(みだれまい)

日本舞踊の世界を舞台にした長編二部作。

 滅茶苦茶面白かったです。

有吉佐和子は、野心を抱いた女がのし上がっていく小説をいくつも書きましたが、ひょっとするとこれが最高傑作かも。

「連舞」の主人公・秋子は踊りの師匠を母に持ちますが、家元の血を引く異父妹・千春とくらべて才能がないことは自分でわかっています。
一歩下がって妹の引き立て役に甘んじていた秋子ですが、戦争・空襲・敗戦を経て瓦礫と化した梶川流の稽古場を再建するため、わが身を売り物にしてまで奮闘します。
女というか人間として逞しく成長してゆく秋子、天才的踊り手だが能天気で浮世離れした妹・千春、踊りのことしか頭にない身勝手な母・寿々
女三人・三つ巴の愛憎ドラマ。
い〜い具合にドロドロで、たいへんよろしゅうございました。

男性もたくさん登場しますが彼らがまた、い〜い具合にクズばかりで、たいへんよろしゅうございました。

才能がないために母・寿々から愛されず思い悩む秋子ですが、決して踊りが嫌いなわけではありません。
愚直に稽古に励み、踊り続けるうちに徐々に腕を上げ、ある種の境地に達します。

 「惑う暇があったら、こうして踊っていればいい」(338ページ)

・・・いわゆる「練習は裏切らない」ってやつですね、うんうん、私もチェロがんばろう。

続編「乱舞」は己の野心を目覚した秋子が、したたかに策略を巡らせた末に、みずから梶川流の家元に就任して終わりますが、
決して大団円ではなく、いくつもの波乱が渦を巻いたまま、クライマックスでさっと幕を下ろすような鮮やかなエンディング。
秋子はこのあと、渦を乗り越えていけるのか、それとも飲み込まれてしまうのか・・・。

有吉佐和子の筆はあざといまでにエンターテインメントでして、もう読ませる読ませる。
文章に勢いがあります、エネルギーがあふれています、それでいて格調を感じます。
50年以上前の小説ですが、いま読んでも古くありません、すっと入っていけます、圧倒されます。
やっぱりすごい作家さんです、これこそが才能、天才というものでしょう。

なお有吉佐和子は自身も日本舞踊をたしなみ、吾妻流家元宗家・吾妻徳穂の秘書をしていた時期もあるそうです。


(2020.06.19.)


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