有吉佐和子/青い壺
(1977)



Amazon : 青い壺 (文春文庫)


無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壷。
何度も持ち主を変えてゆくその壷に、さまざまな人生が映る。
定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、病気療養中の美術評論家。
人の世の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。


最近本屋で有吉佐和子「悪女について」が平積みになっています。

大昔に読んでとても面白かった記憶があるのですが、ほぼ忘れていたので買って読みました(←本屋の思う壺)。

  ・・・やっぱり面白かった!

巧みな語り口で小説技巧の粋を極めた、ケレンと華やかさに満ちた大傑作。
以来ちょっと有吉佐和子にはまりまして、ほかの作品もぼちぼち紐解いているのですが、最近「こりゃまた大傑作じゃん!」と感激したのが

 「思う壺」・・・・・・じゃなくって「青い壺」(1977)です。

一つの美しい壺を狂言回しに、さまざまな人間模様を描く連作短編集、全部で13編からなります。
物語としてはよくあるパターンですが、とにかく語り口が最高に上手いのです。
そういえば「悪女について」も、ひとりの女を軸にした連作短編でした。


貧しい陶芸家がある日焼き上げた青磁の壺、本人も驚くほどの会心の仕上がりとなりました。
たまたま訪れていた古物商が気に入り買い取ることになりますが、ついでのように「古色つけといてんか」と言われます。
つまり古いものに見せかけてくれということですね。
決断がつかず悩む陶芸家を見かねて、妻は独断で壺をほかの商品と一緒にデパートに卸してしまう・・・というのが第1話。

第2話では定年退職した会社員の妻がデパートでその壺を2万円で購入、在職中世話になった副社長に贈るために夫に持たせ、送り出します。
退職した夫を持て余す妻の様子が真に迫っていて、退職するのが怖くなります。
当分頑張って働こうワタシ。

第3話では壺を贈られた副社長の夫人が壺に花を活けるのに悪戦苦闘します。
長年生け花をたしなんできた夫人ですが、壺の美しさに負けない花をなかなか活けることができないのです。
それほどの名品なのですね。

壺は人から人へと渡ってゆき、十数年ののち再び陶芸家の目の前に思わぬ場所で現れ、物語は幕を閉じます。
鮮やかで皮肉が効いたエンディングですが、読後感はとてもさわやかです。
そしてどの登場人物もキャラが立っていて存在感があります。
おそらく100人近いキャラクターが登場するのですが、どの人物も「人生」を感じさせ確固とした印象を残します。 すげえな有吉佐和子


どの話も素晴らしいですが、もっとも感動したのは第7話。
外交官の未亡人である老婆が息子夫婦に戦時中の思い出を語ります。
物資も食料もない中で、元外交官の夫があるだけの芋や大豆や醤油を使って昔フランスで楽しんだフルコースの疑似再現を試みます。
テーブルには蝋燭、食器は秘蔵のものを並べ、精一杯着飾って、ワイングラスになけなしの日本酒を注いで、二人だけのディナー。
すると魚や肉に見立てた芋がだんだん極上の美味に感じられてくる不思議。
いやあ、この旦那さん素敵やわ〜、惚れてまうやないか!(←そういう趣味はないけど)
美食小説としても最高の一編でした、食いしん坊は必読でしょう。

(2020.05.22.)


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