J・S・バッハ/トリオ・ソナタBWV525〜530

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皆様には苦手な楽器って、ありますか?
弾くほうじゃなくて、聴くのが苦手というか、どうも好きになれない楽器です。

たとえばモーツァルトは、トランペットとフルートが嫌いだったそう。
もっとも当時の楽器は音程が不安定で、よほどの名手が演奏しないと聴き苦しかったそうで、音感の鋭いモーツァルトには耐え難かったのかも。
現代の楽器ならまた違うかもしれません。

私は、パイプオルガンの音色がちょっと苦手です。
神々しくて宇宙的な響きは魅力的ですが、場合によっては威圧的で暴力的にも感じます。
大音量で和音を延々引き伸ばされたりすると、うるさいというか、怖くなってきます。
しかも、ほかの楽器で大きな音を長く伸ばすのはロングトーンと言って、それなりの努力と技術と体力が必要ですが、
オルガンは鍵盤またはペダルを押しとくだけでいくらでもロングトーンが出せます。

 なんかズルくないですか、それ? (オルガニストの方スミマセン)

なおピアノではロングトーンはそもそも不可能です。

さてそんな私が例外的に好きなオルガン作品があります。

 J・S・バッハ/トリオ・ソナタBWV525〜530

バッハが息子フリーデマンの教育用に作曲した6つのソナタ。
優しく優美で、威圧的なところがないのが良いですね。
高度な技巧は要求していませんが、左右の手とフットペダルで3つのパートをバランスよく響かせるのは、かなり難しいんじゃないでしょうか。

 

マリー・クレール・アランのCD(1984録音)は、暖かい音色でふっくらふくよか、柔かい夢に包まれるような心地に誘います。
短調作品のそこはかとない哀感と抒情も美しく、過度にロマンに没入せず、響きを常にハッキリと見据えながら、冷静な音楽作り。

 

パイプオルガンの豊満な音色を駆使しながら情や肉感に訴えるのではなく、
一定の緊張を漂わせつつ、さりげなく薫るほのかな色香でサラリと酔わせる、そんな知的な演奏。

ところでトリオ・ソナタというのは、もともと2つの旋律楽器と通奏低音で演奏される室内楽であり(通奏低音はふたりのことが多い)、
オルガン独奏のトリオ・ソナタのほうがむしろイレギュラーな存在。
なのでこのバッハのトリオ・ソナタ、室内楽編成でもよく演奏されます。

 

私が持っているCDは、ハインツ・ホリガーのオーボエ、タベア・ツィンマーマンのヴィオラ、クリスティアン・ジャコテのチェンバロ、トーマス・デメンガのチェロによるもの。
超一流アーティストたちによる、密度の濃い名演奏です(1987録音)。
ホリガーの明晰で輪郭のくっきりしたオーボエが素晴らしいのはもちろんですが、印象に残るのがチェロのデメンガのセンスの良いフレージング。
私がチェロ弾いてるってのもありますが、それを差し引いてもこのチェロは実に雄弁で良く歌ってると思います。

オルガン版は暖かく、室内楽版は涼しげな印象。
冬はオルガン、夏は室内楽版で聴くとしましょう。

(2017.12.17.)

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