アントニイ・バークリー/試行錯誤
Anthony Berkeley/Trial and Error
(1937)
Amazon.co.jp : 試行錯誤 (創元推理文庫)
楽天:試行錯誤
<ストーリー>
主治医から「余命数か月」と宣告された独身の資産家トッドハンター氏。
残り時間の有意義な使い方を考えた結果、社会に害を為す人物を殺害することにした。
決定した標的は、男に寄生して金を搾り取り家庭を破壊に導く美人女優。
ピストル片手に彼女の家に乗り込むトッドハンター氏。
女優は無事(?)射殺されるが、なんと無実の人間が逮捕されてしまう。
あわてて自首するが、警察には相手にしてもらえない。
トッドハンター氏は探偵に、「なんとか私が犯人であることを証明してくれ!」と「捜査」を依頼するが・・・。
アントニイ・バークリー(1893~1971)。
ちょっと前までは「毒入りチョコレート事件」と、フランシス・アイルズ名義の「殺意」 「レディに捧げる殺人物語」くらいしか知られていなかったのですが、
今世紀に入ってわが国での再評価が急速に高まったミステリ作家です。
いまやイギリス・ミステリの最終兵器、ミステリ形式の破壊神。
クリスティをけなしても許されるけど、うっかりバークリーをけなすと
「わかってないやつ」
の烙印を押され、ミステリ・ファンの中で村八分にされてしまうほどです。
しかし、「ミステリ」というジャンルを極限まで突き詰める「過剰さ」には魅了されます。
「試行錯誤」(Trial And Error)は1937年、円熟期のケッ作。
バークリー得意の草食系男子ミステリで、万事控えめな独身男トッドハンター氏が、
「余命幾ばくもない」と診断されたとたん、「社会に害を為す人物を殺そう!」と決心する突飛さにまずはクスッと笑ってあげるのが正しい鑑賞態度。
1930年代の小説なので、万事ゆったりしてます。
殺すべき人物が決まるのが小説のほぼ3分の1を過ぎたところ。
ジェイン・オースティンに対するのと同じ態度で、ゆったりと付き合いましょう。
被害者はちょっと気の毒です。
「え、この程度で殺されなきゃいけないの!」と思いますがなにしろ30年代ですから。
そして後半、無実の人間が逮捕され、これはいけないと、
探偵を雇って証拠を集め、「自分が犯人であること」を証明するべく裁判を起こすモラリスト(?)トッドハンター氏!
ふつう裁判では自分が犯人でないことを証明しようとするものですが・・・。
まさに逆転裁判。
この着想、現代に至るも追従者が出ていないのでは??
あちこちにユーモアと皮肉を散りばめ、絶妙な結末へ。
一度読んだら忘れられない印象を残す特異なミステリ、しかもグフグフ笑いながら読めます(←キモイ)。
静かな夜に、安楽椅子に身を沈めてゆっくりとページをめくるのにふさわしい一冊。
飛ばし読みには向きません。
アントニイ・バークリー作品は、以前「ジャンピング・ジェニイ」をご紹介しました。
これもまた、破壊力抜群のとんでもないミステリです。
(2013.2.28)