志望高校への入学が無事決まった長女、
「やったー、これで遊び放題!」
と思いきや、塾の先生から
「あんまりダラけたら、高校に入ってからしんどいよ。 いまのうちに高校の予習をやっておきましょう」
「ひ、ひえ〜〜」
それでも根が素直な性格なのか、家でもシコシコ因数分解などやっております。可愛いもんです。
しかしなかなか難しいみたいですね。
「お父さん、わからない問題があったら教えてよ」と言うので
「よし、なんでも訊いてくれ」
やがて、「お父さん、この問題わからない」
私、チラッと見て、
「お父さんにもわからんっ!」
「なんでも訊けって言ったじゃん!」
「訊けとは言った! でも答えられるとは言ってない!」
・・・だいたい因数分解なんて、30年もやってないんだから、わかるわけないじゃん。
2010年・本屋大賞にもノミネートされている、冲方丁「天地明察」。
江戸時代、日本独自の暦を作ることに生涯をかけた実在の偉人、渋川春海(1639〜1715)の物語です。
将軍お抱えの「碁打ち衆」の家に生まれながら、碁よりも算術に興味を抱く春海。
さまざまな出会いと別れを繰り返すうち、
本人の意思とは関係ないところで大きな力が働くかのように、
日本独自の「大和暦」を作成する大事業の中心人物となってゆきます。
ある意味、最高に幸福な人生を送った男の物語といえましょう。
やりがいのある仕事に恵まれ、理解ある上司に恵まれ、気のおけない仲間に恵まれ、
よき妻にも恵まれ、おまけに後世に名を残す・・・。
夢ですね、理想ですね、うらやましいー!
場合によっては読者に反感を抱かれかねないほどの順風満帆ぶりですが、
主人公・渋川春海の飄々としたキャラクターと、著者・冲方丁さんの巧みな語り口のおかげで
爽やかに読み進められ、読後は幸福な気分に包まれました。
それにしても、「マルドゥック・スクランブル」「マルドゥック・ヴェロシティ」書いたのと同じ人とは思えない・・・。
脇を固める面々も、面白い人たちがそろっています。
とくに、凶暴荒くれ系キャラとして描かれる水戸光圀と、
ツンデレを絵に描いて額に飾って神社に奉納したようなヒロイン・えんが魅力的。
そして日本が生んだ天才数学者・関孝和。
出そうで出なくて・・・結局出ないの? あれ、やっぱり出たー! そのじらし方がなんともニクイ。
作中に数学の問題もいくつか登場します。
そのひとつ。
『今、釣(高さ)が九寸、股(底辺)が十二寸の勾股弦(直角三角形)がある。
その内部に、図のごとく、直径が等しい円を二つ入れる。 円の直径を問う』(21ページ)
いやあー、これは難問!
いろいろ考えて、どうにも解けなかったのですが、
「やっぱり本を読む人々」というSNSで、見事に回答していらっしゃる方がおられまして、
それを見てやっとわかりました。
「見事ご明察!」です。 ありがとうございました。
関孝和はこの問題を一瞥で解いてしまったそうで、
そもそも高1の因数分解で「わからん」と言ってる私のようなものの出る幕ではないですよね・・・。
しかし数学って面白いです。
ところで、2010年・本屋大賞にノミネートされているのは以下の10冊(五十音順)。
『1Q84』村上春樹(新潮社)
『神様のカルテ』夏川草介(小学館)
『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)
『植物図鑑』有川浩(角川書店)
『新参者』東野圭吾(講談社)
『天地明察』冲方丁(角川書店)
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)
『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)
『ヘヴン』川上未映子(講談社)
『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)
私はいまのところ、東野圭吾「新参者」以外の9冊を読んでいます。
個人的にダントツ最高コレしかない!と思うのが、藤谷治「船に乗れ!」。
次いで良かったのが「天地明察」と、吉田修一「横道世之介」でした。
私が書店員だったら、この3冊に投票します。
ただし投票する人は10冊ぜんぶ読むことが条件だそうですが。
(10.3.1.)