降田天/すみれ屋敷の罪人
(宝島社 2018年)



Amazon : すみれ屋敷の罪人


2001年、旧華族・紫峰家のいまは廃墟となっている敷地から二つの白骨死体が発見された。
すみれの花で彩られた館には戦前、当主の太一郎と、美しい三人の娘が暮らしていた。
そして四人は終戦間近、東京大空襲で亡くなったとされている。
白骨死体は、いったい誰なのか?
かつての女中や使用人たちの語る、主人と三姉妹の華やかな生活、そして忍び寄る軍靴の響き。
証言は二転三転し、やがて美しくも悲しい真実が明らかに――。


驚愕の傑作!


降田天/すみれ屋敷の罪人

休日の退屈しのぎになにげなく読んだのですが・・・・。

 なにこれ、大傑作じゃないすか!!

いまは廃墟となっている華族の屋敷の庭に埋められていた二体の白骨死体。
テーマは「過去の殺人」なので、血なまぐさくないのは良いですね。

というか、超美しい物語であります。
エレガントです、耽美です、繊細優美華麗濃密です。

かつての使用人たちの証言が積み重ねられてゆくなかで徐々に状況が見えてくるのですが、
証言者も何かを隠していたり、重要なポイントで嘘をついていたりするもどかしさ、ああたまらん。
そして最後に明らかになる真実といったらもう、せつなさ120%、静かな衝撃。
伏線回収、辻褄合わせも抜かりなく、完璧に組み立てられています。

華族の屋敷を舞台にしたゴシック・ロマンであり、美しい姉妹の愛憎物語であり、親子・主従の絆を描いた忠義の物語でもあります。
文章も洗練され流麗かつ自然、人物描写も巧みで、その心理や行動には十分な説得力があります。

うーむ、これ以上は何を言ってもネタバレになってしまいそう、自主規制、自主規制。

悲しい物語ですが、読後感は爽やかです。
「罪人」は出てきても「悪人」は出てこないからでしょう、きっと (「悪人」がいないからかえって切ないとも言えます)。

数年前に読んだケイト・モートン「リヴァトン館」を思い出しました、あれも面白かった。
しかしあえて断言しますが、「すみれ屋敷の罪人」のほうがはるかに傑作です。

ちょっとだけネタバレ(反転してください)
  ↓
 250ページで岡林の前に現れたのは誰なのか? 涙子ではないように読めます。 まさか、ヒナ・・・?

(2019.03.03.)


霧が晴れるように記憶が目覚めてゆく。思い出があざやかによみがえり、色づいていく。
すみれの丘の、すみれの館。やさしい旦那さまと、美しい三姉妹。
面倒見のよいふたりの書生と、気のいい使用人たち。
その中からひとりの姿だけが浮かび上がった。

(252ページ)


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