小宮正安「音楽史 影の仕掛け人」
(春秋社 2013年)



Amazon.co.jp : 音楽史 影の仕掛人


クラシック音楽に関する本や、CDの解説を読んでいると、きまって遭遇する人名というのがいくつかあります。

 「ついにモーツァルトはザルツブルク大司教コロレドと決裂し・・・」とか
 「ベートーヴェンはこの協奏曲を長年の友人にしてパトロン、ルドルフ大公に献呈した」とか
 「『冒頭の4つの音は何を示すのか』というアントン・シントラーの質問に対し、ベートーヴェンは『運命はかく扉を叩く』と答えた」とか
 「ワーグナーは友人の指揮者ハンス・フォン・ビューローの妻コジマと不倫関係となり、ついには・・・」とか
 「第1交響曲の初演が失敗に終わったラフマニノフは重度の神経衰弱に陥るが、ニコライ・ダール医師の催眠療法により創作意欲を回復し・・・」

などなど。

本書は彼ら音楽史の「名脇役」たちにスポットライトを当てた一冊。
「脇役」というよりは「仕掛け人」的な人物が多いということで、

 「音楽史 影の仕掛け人」

というタイトルになっています。

「仕掛け人」かあ・・・。
ひそかに策略を巡らせる影の大物みたいでカッコいいですねえ。
豪華な邸宅の薄暗い応接間で、高級ビジネス・チェアに座り葉巻をくゆらせながら「クックック・・・」と含み笑い。
膝の上には黒猫が必須です! (←何か勘違いしている)

長年、名前だけはよく知っていた人々の素顔が明らかになるのは面白いものです。
ロベルト・シューマンとクララの結婚に反対し続け、ついに訴訟までおこした、クララの父にして名ピアノ教師フリードリヒ・ヴィークとはどのような人物か。
長年にわたってチャイコフスキーのパトロンをつとめた大富豪フォン・メック夫人が、本人に会うことは頑として拒み続けた奇妙さ。
「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」「ダフニスとクロエ」「三角帽子」など、20世紀バレエの名曲を委嘱しまくったバレエ・リュスの創設者セルゲイ・ディアギレフはダンサーでも音楽家でもなかった。
などなど、クラシック・オタクならば「へえ」ボタン連打モノの話が満載です。

個人的に最も興味深く読んだのがティホン・フレンニコフ(1913〜2007)の章。
ソ連作曲家同盟の書記長、「社会主義リアリズム」の体現者、ソ連共産党の手先としてショスタコーヴィチなどを迫害した作曲家。
ソフィア・グバイドゥーリナらの音楽を「的外れ、騒音、汚泥」と批判したりしてます。
「ショスタコーヴィチの証言」では体制側の犬・フレンニコフは徹底的に戯画化して描かれていますが、
さて、本当のところはどうだったのか・・・? 興味は尽きません。

本書には全部で25人の「仕掛け人」が紹介されています。
でも、ネタはまだまだありますよね。
モーツァルトに「魔笛」を書かせたシカネーダー、ハイドンをロンドンでデビューさせたザロモンとか・・・。
続編を希望したいところです。

(2013.10.5.)

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