砥上裕將/線は、僕を描く
(講談社 2019)



Amazon : 線は、僕を描く


両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生青山霜介は、アルバイトに行った展覧会場でひとりの老人に気に入られる。
じつは老人は水墨画の巨匠篠田湖山であり、なんと霜介はその場で内弟子にされてしまう。
ずぶの素人を弟子にすることに湖山の孫千瑛は激しく反発、霜介は戸惑いながらも次第に水墨画に魅了されてゆく。

砥上裕將/線は、僕を描く

からっぽな心を抱えた若者が熱中できるものを見つけて成長してゆく、という青春小説の王道パターン。
しかし「水墨画」とは、なかなか渋いところを突いてきましたねえ。
正直、

 「またかよ」

と思いながら読み始めたのですが次第に引き込まれ、背筋が伸び、読み終わった時は正座していました(嘘です)。
著者自身が水墨画家ということもあり、水墨画の世界の描写はけっこうリアルな模様。
恩田陸「蜜蜂と遠雷」に通じる雰囲気もありますが、あちらは現実離れした漫画チックな設定が目立ってたような(それが面白いんですが)。
しかし音楽でも水墨画でも、ひたむきに求道する姿を描いた小説って読みごたえがありますね、こういうの好きです。

まあ主人公が天才過ぎるとか千瑛が美人過ぎるとか師匠・兄弟子いい人たち過ぎるとか千瑛が美人過ぎるとか周囲の理解ありすぎとか千瑛が美人過ぎるとか、
突っ込みどころはいろいろありますが、とにかく面白うございました。
タイトルが「僕は、線を描く」ではなく「線は、僕を描く」である意味も、読み進めるうちに腑に落ちます。
たしかに線は、描くその人を描くんですね(←伝わらん)。

この本読んで、「ひたむきな求道者」気分が冷めやらぬうちに急いでチェロの練習したら、
気のせいか普段よりちょっと集中できたような・・・(←気のせいです)。

(2019.10.19.)

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