恩田陸/蜜蜂と遠雷
(幻冬舎 2016年)



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芳ヶ江国際ピアノコンクール。
「優勝者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスがあり、近年注目を集めているコンクールである。
養蜂家の父とともに各地を転々とし自分のピアノを持たない孤高の天才少年・風間塵15歳。
内外のジュニアコンクールを制覇し天才少女と呼ばれながら、13歳のときに母が急死してから舞台でピアノが弾けなくなった栄伝亜夜20歳。
音大出身だが今は楽器店勤務でコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目されるジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。
第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

青春音楽エンタメの新たな傑作!


2回に1回は間違えて、「ハチミツと遠雷」と言ってしまう・・・。

 恩田陸/蜜蜂と遠雷

「ハチミツとクローバー」がごっちゃになってますな。


二週間にわたるピアノコンクールを真っ向勝負で描いた群像劇です。
テーマは芸術の厳しさ、表現の多様性、音楽の奥深さ、etc, etc・・・
しかし、特筆すべきはその読みやすさと面白さ
二段組で500ページを超える大長編なのにスルスルと読めること読めること、私は1日半で読了。
その後ニョウボも夢中で読んで約2日で読了。
現在、たまたま短期帰省中の長女が、読み始めて1日でもう半分ほどに到達しています。

浜松国際ピアノコンクールをモデルにしたと思われますが、キャラクターと展開は良い意味で少女漫画的。
天才ゴロゴロ出てくるし、おまけにみんな美男美女。
きちんと習ったことはないどころかピアノも持っていないのに、誰にも真似できない演奏をする風間塵(当然美少年、しかも15歳!)なんて、ほぼマンガです。
しかし「音楽芸術の本質と意義」という、いくらでも難しく書けるテーマを、読みやすい平易な文章で楽しく面白く描いてくれます。

ストーリーはコンクールの進行を追っていくだけ、物語の舞台もコンクールが行われるホールにほぼ限定、
なのにまったく単調さを感じさせず、読者を退屈させない恩田マジック
理由の一つが、詩的かつ絵画的で流麗のきわみともいえる音楽描写・演奏描写。
以前ご紹介した青柳いづみこ「ショパン・コンクール」の理知的でクールな技術論的描写とはまた違った魅力が香ります。
読み比べてみるのもご一興。

コンテスタントたちが、ただ争うのではなく、互いの演奏を聴いて高め合ってゆく様子も感動的。
青柳いづみこを読むと、現実はこんな綺麗ごとではないとわかりますが、ここで描かれるのは美しく輝く理想郷。
ただ、主要コンテスタント4人のうち風間塵、栄伝亜夜、高島明石の三人が日本人で、残るマサル・カルロス・レヴィ・アナトールが日本人とのハーフという設定は違和感があります。
いくら日本で行われるコンクールとはいえ、日本音楽コンクールではなく国際ピアノコンクールなんだから。

通好みの渋い選曲もお見事。
登場人物のキャラがわかってくると、「なるほどこの人ならこの曲だよな」と、納得の曲が並びます。
恩田陸は大学時代、軽音でバンド組んでたと聞いたことがありますが、クラシック通でもあるのですね。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第3番、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番など、
「あー、いい曲だよなあれ。そういえば長いこと聴いてないなあ」
と、久しぶりにCDのホコリを払い、聴き入りました。

読みやすくて、しかも深い!
2016年ベスト級の小説です。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第3番


プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番


(2016.11.30.)

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