レベッカ・クラーク/ヴィオラ・ソナタほか
(フィリップ・デュークス:ヴィオラ ソフィア・ラーマン:ピアノ)



Tower : レベッカ・クラーク/ヴィオラ作品集




月に2回くらい、「こんないい曲があったとはっ! 知らなんだっ! エウレカーッッ!」と叫んでは家族に気味悪がられている木曽のあばら屋です。
私の無知と言ってしまえばそれまでですが、音楽の世界はそれほど深く幅広いのだと思いたいです。
さていちばん最近「これ知らなんだっ!」と私を絶叫させてくれたのが、

 レベッカ・クラーク(1886〜1979)/ヴィオラ・ソナタ(1919)

ヴィオラ奏者の間では知らぬ者なき有名曲らしいですが、一般にはそれほど知られているとは・・・(単に私が無知なだけ?)。
3楽章からなる二十数分の堂々たるソナタです。

 第1楽章 "Impetuoso"(激しく、性急に)
 

冒頭ヴィオラに決然と登場するメロディのカッコイイこと! いきなり惚れてまうやないか。
これは第1楽章の第一主題というよりは、曲全体を支配するモットー主題みたいなもの。

 

楽章の第一主題は0:40からヴィオラに登場する流れるような旋律(下の楽譜の[1]Poco Agitatoから)で、ピアノがモットー主題で対位法的に絡み、1:38あたりでひと段落。

 

つづいてピアノにより幻想的で優美な第二主題がさりげなく呈示され、2:08からヴィオラがしっかり歌います。
3:15あたりから展開部、音の霧の中からリズミックな動機が立ち上がり、ピアノが第一主題後半の動機を繰り返し、ヴィオラは第一主題を優美に歌います。
そして4:51、ピアノにモットー主題が静かに登場、そのまま眠りにつくように静まってゆきます。
5:18、突然目が覚めたようにヴィオラが第一主題を再現、再現部に入ります。
6:09から第二主題の再現、呈示部よりも朗々と歌われます。
7:00からコーダ、ヴィオラがアルペジオを奏でるなか、ピアノが低音で第二主題をゆっくりと繰り返し、夢見るように楽章を閉じます。

 第2楽章 "Vivace"
 

第2楽章はスケルツォ。
このソナタはピアノがヴィオラ同様、いやそれ以上に大活躍、仕事量で言うとピアノ:ヴィオラが7:3くらいじゃないでしょうか。
「ヴィオラ・ソナタ」ではなく、きちんと「ヴィオラとピアノのためのソナタ」と呼んであげないとピアニストが浮かばれません。
とくにこの楽章のピアノは協奏曲並みの難しさなんじゃないかと思うほど。
フランス印象派風の軽やかな楽章で、モーリス・ラヴェルの影響が感じられますが、粋で洒落てて印象深いスケルツオです。

 第3楽章 "Adagio"
 

第3楽章は緩徐楽章とフィナーレが一体化した独創的な音楽、なお構造は複雑怪奇です。
まずピアノが子守歌のような素朴な歌を単音でとつとつと鳴らします。

 

ヴィオラが深みのある音で受けて、幅広いメロディへと発展、1:37からは高音域で子守歌を歌います。
優しい雰囲気で進んでゆきます、心地よさのあまり思わず眠気が・・・。
それでも徐々に盛り上がり、3:50〜4:10あたりでクライマックスに達しますが、ふたたび静まって子守歌となります。
5:50あたりからピアノが激しく動いて緊張感を増し、6:21からヴィオラに第1楽章の第一主題が登場、ピアノはモットー主題の動機で支えます。
このあたりからフィナーレらしくなってきまして、子守歌やらモットー主題やら第1楽章の主題やらが入り乱れ組んずほぐれつ、
テンポも自在に変化、百花繚乱、絢爛豪華、乾坤一擲、千歳一遇の大スペクタクル(←なんじゃそりゃ)、
最後はモットー主題の変形による華々しいコーダとなります。


レベッカ・クラーク(1886〜1979)は、イギリス生まれのヴィオラ奏者兼作曲家。
1910年にかねてより確執のあった父親とけんかして家を飛び出し、女一匹音楽で身を立て、1916年ごろアメリカに渡りました。
ヴィオラ・ソナタは1919年、富豪で芸術庇護者のクーリッジ夫人が主催したヴィオラのための室内楽作品コンテストに出品したもの。
エルネスト・ブロッホ「ヴィオラとピアノのための組曲」と1位を争いますが、クーリッジ夫人はブロッホを優勝としました。
実はクーリッジ夫人とレベッカ・クラークはご近所で友人同士であり、レベッカを1位にすれば依怙贔屓の印象を与えると考えたともいわれます。

レベッカは1920年代にはいくつかの作品を発表しますが、その後作曲からは徐々に遠のきます。
ヴィオラ奏者としての演奏活動は続けましたが、作曲家としての彼女はやがて完全に忘れ去られました。

1976年のこと、名ピアニスト、マイラ・ヘス(1890〜1965)を偲ぶラジオ番組が放送され、
90歳のレベッカはマイラの長年の共演者としてゲスト出演しました。
番組中で自分は作曲家でもあり、マイラ・ヘスにも何曲か演奏してもらったと話したところ、番組スタッフが興味を持ち、
後日同じ番組で彼女自身を取り上げることが決定、そこで演奏されたヴィオラ・ソナタピアノ三重奏曲が大きな反響を呼び、
レベッカは90歳にして一躍注目の作曲家となったのでした。

1979年、93歳で大往生を遂げました。
苦労の多い人生だったようですが、亡くなる前に正当な評価を受けられて良かったです。
長生きはするもんですね。


このCDはヴィオラ・ソナタを筆頭に、ヴィオラとピアノのための室内楽作品をたっぷり79分収録、ソナタ以外もいい曲ばかりです。
ヴァイオリン・ヴィオラ・ピアノの三重奏曲、クラリネットとヴィオラの二重奏曲なんて珍しい編成の曲も収められ、聴き応えたっぷり、大満足です。

 アレグロ (クラリネットとヴィオラのための)
 (小洒落た楽しい曲です)

 ドゥムカ (ヴァイオリン、ヴィオラ、ピアノのための)
 (哀愁に彩られたロマンティックな作品、変化に富んで飽かせません)

(2022.06.03.)


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