ノア・ゴードン/ペルシアの彼方へ(千年医師物語・第1部)
(角川文庫 上下本 2001年)




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<ストーリー>
11世紀初頭のロンドン、両親を亡くした10歳の少年ロブ・J ・コールは、
旅回りの「外科医兼理髪師」に拾われる。
イギリス中を旅しながら、町々で曲芸を披露して人を集め、インチキな薬を売る生活。
そんな彼らでも人々は頼りにしてくれ、彼らもときにはきちんとした治療を施せる場合もある。
しだいに「本当の医者」になりたいという欲求が頭をもたげてくるロブだが、
そもそも中世のイギリスには真の医学を学ぶすべはなかった。
やがてひとり立ちしたロブは、はるか東方のペルシアに、「病院」というものがあり、
そこでは本当の医学が行われているという話を聞く。
彼は、ペルシアで医学を学ぶ決意を胸に秘め、ひとりイギリスを旅立つ・
・・


ある医師の家系の千年に及ぶ歴史を描いた三部作の第1部です。
さぞ重厚かつ難渋な大河小説かと思えばさにあらず、
作者がアメリカ人であるせいでしょうか、サービス満点、するする読めてしまいます。
主人公の波乱万丈の人生や、各登場人物のキャラはまるでハリウッド映画のようで
トム・クルーズ主演で映画化しても面白いんじゃないかと思うくらいです。

一方、非常にしっかりとした取材にもとづいていることも確かで
当時の医学の世界が生き生きと描かれています。
中世ヨーロッパではキリスト教会の力が強く、まともな医学は発展しなかったのですね。
人を癒すことは神にのみ許されたことであるから、医師は神の領域を侵すものとして
まかり間違えば異端者として裁かれていたということです。

さて、前半で少年ロブに、軽業や外科医の仕事を厳しく教え込む「床屋さん」、
このキャラクター、私は気に入りました。ジャック・ニコルソンのイメージです。
ロブとの間に、擬似親子としての愛情が芽生えてゆき、そして突然の別れ。
「パターンどおり」と思いながらも泣けました。

後半、舞台はペルシアに移ります。
当時、イスラム圏であるペルシャで絢爛たる文化が栄え、医学や科学もかなり発達していたことを、
むかし、高校の歴史の授業で習ったような気もしますが
こうしてしっかり取材した上で小説に描いてもらえると、面白いものです。
あのテロ事件を見てしまった私たちとしては、イスラムをやや偏った目で見てしまいがちですが、
ここで描かれるペルシャは、むしろヨーロッパより開かれた世界です。
(ただしこの小説は1986年に書かれています。)
あと、ユダヤ教もからんでくるので、この本1冊でかなり宗教に詳しくなれます。
もっとも著者ノア・ゴードンは、どうやら宗教全般に少し否定的な考え方を持っているようで、
日本人である私は別にどうとも思いませんが、
よくこの小説が欧米でベストセラーになったものだという気が、ちょっとしました。

最後には、ロブはスコットランドに自分の居場所を見い出し、
家庭をもち、医師として一生を送ることになります。
彼の妻となるメアリーは、たおやかな女性らしさを持ちながら芯が強く知的という、
これまたいかにもアメリカ人好みのヒロイン像ではありますが、まあ安心して読めますよね。
ジュリア・ロバーツのイメージで読みました。
(このキャスティングでほんとに映画にしたらギャラが凄いことになりますね・・・。)
全編を流れるヒューマニズムが心地よく(やっぱし「いかにもアメリカ」な感じではありますが)、
読後感はたいへん良いです。

第2部では舞台はいきなり19世紀のアメリカに飛びます。
今読み始めたところです。面白ければまた感想をアップしたいと思います。

(01.1.27.記)


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