ポール・アダム/ヴァイオリン職人の探求と推理&ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密
(青木悦子・訳 創元推理文庫 2014年)
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先日、なにげなくチェロを持ち上げようとして
痛っ!
エンドピンの先で指を刺してしまいました。
血が出ちゃったよ〜。
チェロのエンドピンというのは、楽器の下についてる金属の棒で、先端は思い切り尖っています。
演奏する時は、これを床にぶっ刺して弾くので、
コンサートホールの舞台のチェロが座るところは床が傷だらけになります。
ホールによっては「エンドピン禁止!」というところもあり、そういうときはヴァイオリンのように楽器を顎の下に挟んで・・・・・弾けるかっ!
実際は「エンドピン・ホルダー」という道具を使います(家で練習する時ももちろん使います)。
エンドピン・ホルダー(直径10cmくらいです)
それにしてもエンドピン、素で凶器です。
指先に絆創膏を張りながらしみじみ思いました。
ミステリ小説で、「エンドピンが凶器」という作品が(たぶん)ないのが不思議なくらいです。
エラリー・クイーンの某傑作に楽器が凶器となるものがありますが、チェロじゃないしね。
ミステリ作家の方、誰かエンドピンを凶器に小説を書きませんか?
いやしかし、エンドピンが凶器であることが広く世間に知られてしまうとまずいですね。
チェロ背負って歩いてると職務質問されたり、チェロ弾きが集まっただけで凶器準備集合罪で摘発される恐れが・・・・・・?
さて、楽器とミステリといえば、昨年創元推理文庫から出たこのシリーズ。
ポール・アダム/ヴァイオリン職人の探求と推理&ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密
ヴァイオリンにまつわる事件に巻き込まれたヴァイオリン職人が、楽器と音楽の知識を生かして謎を解く!
という設定を聞いただけで「こんな感じかな〜」と予想される内容をまったく裏切らない安定感。
はっきり言ってミステリとしてはゆるゆるでして、殺人事件の謎も失礼ながらたいしたことないのですが、
それでも面白く読めてしまうのは、温かい語り口が心地良いのと、楽器・音楽に関するウンチクが興味深いから。
主人公が、人生の酸いも甘いも噛み分けた60代のヴァイオリン職人というのもよろしいです。
人生を心豊かに生きるすべを心得ています。
パガニーニの謎がテーマの第2作「ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密」では、
この鬼才の波乱に満ちた生涯が大きく取り上げられます。
はっきり言えば現代の殺人事件よりパガニーニの話のほうが面白い。
後半でちょっと出てくるヴィオッティの恋バナも「へえ〜」でした。
ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィオッティなんて、普通の人はまず知らないと思いますが、この恋物語は読ませます。
ヴァイオリンのCDでも流しながら、のんびりページをめくるのが楽しいシリーズ。
クラシック音楽に多少興味がある方なら面白く読めると思います。
ただし、「俺は音楽はヘヴィメタルしか聴かないぜ、ヘドバンッ!」という方は・・・・・・あまり面白くないかも(そりゃそうじゃ)。
(2015.5.24.)